今回のモンサント法成立は、日本の食料安全保障を決定的に失わせる可能性を秘めています。我が国では、もはや民主主義が成立していないのも同然なのです。(三橋貴明)
記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年5月20,22日号より
※本記事のタイトル・リード・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
なぜ日本の食料安全保障を「破壊」する法律が成立してしまうのか
もう一つのモンサント法が5月11日に成立
モンサント法として、種子法廃止法について取り上げてきましたが、もう一つ、決定的なモンサント法が、5月11日に成立しています。
肥料や農薬などの農業資材や流通加工分野の業界再編を促す農業競争力強化支援法が12日午前の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立した。政府が昨年まとめた農業改革策の一環。資材メーカーや流通業者などの再編を金融面で支援する。政府は低価格の農業資材の供給や流通の効率化で農家の経営を後押しできると説明している。
上記、農業競争力強化支援法の中に、とんでもない条文があるのです。
農業競争力強化支援法
第八条 国は、良質かつ低廉な農業資材の供給を実現する上で必要な事業環境の整備のため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。
(略)
四 種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。
はあっ!!!!!????
過去に、種子法の下で予算がつけられ、圃場(ほじょう)において蓄積された、様々な種子に関する知見を、民間事業者へ提供する……。予算、ですから、日本国民の税金により作られた「種の知見」を、民間事業者に譲り渡すわけです。しかも、例により外資規制はありません。
売国、以外に、どのように表現すればいいのでしょうか。
種子法が廃止され、農業競争力強化支援法が成立したことで、モンサントは日本の各地域の多様性に道が種の知見を手に入れ、「ちょっと変えるだけ」で生物特許を取ることができます。公共財である日本の種が、外資を含めた「ビジネス」へと変わることになります。
一連のモンサント法により、以下の問題や懸念が生じます。
- 種子法廃止後、種子は育生者権保護を強化した種苗法で管理⇒種苗法では、登録品種を「種子として販売・無償配布しない」という誓約書にサインを求められる
- 農業競争力強化支援法により、公的な種苗の生産に関する知見が民間事業者に提供される
- 特定企業が、過去に日本政府や地方自治体が蓄積した遺伝子を活用し、開発した新品種の「特許」が認められる⇒本来、公共財であった種の遺伝子の権利が特定企業に移行
- 低廉な種子を供給してきた制度が廃止され、種子価格が高騰する可能性が高い
- 日本国内で開発された種が外国の農場に持ち込まれ、農産物が生産される⇒「安価な日本原産の農産物」が、日本に輸入される
- 国内の種子の多様性が奪われ、遺伝子クライシスの恐れが発生
- モンサントなどの遺伝子組み換え作物の種子が広まり、日本固有の種子遺伝子が絶滅する(花粉の伝播は止められない)
我が国は、いずれ新嘗祭を、モンサント(等)の遺伝子組み換えの「稲」で執り行うことになるわけです。
ヒャッハー!!!
それ以前に、種の多様性が失われ、かつ価格が上がることで、食料安全保障は崩壊します。「亡国の農協改革」でも書きましたが、安全保障は掛け算です。足し算ではありません。
すなわち、どれか一つでも安全保障が失われれば、我が国は「亡国」の状況に至るのです。
今回のモンサント法成立は、日本の食料安全保障を決定的に失わせる可能性を秘めています。結果、カーギルが全農グレインを買収できなくても、日本は「亡国」の状況に至るのです。
日本の国会議員は、早急に「公共の種」を取り戻す法律を制定しなければなりません。日本の「種」を守れないということは、日本国民を守れないと同義なのです。
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「もはや民主主義が成立していない」種子法廃止の酷すぎる経緯
日本はこれまで、主要農作物種子法により、優良で多様化した種子を各都道府県が管理し、農家に適正価格で提供することを続けてきました。厳密には、都道府県が種子を管理するための予算の根拠法が「種子法」だったのです。
この種子法が、平成28年10月6日の規制改革推進会議農業ワーキング・グループの提言により、あっさりと廃止されてしまいました。規制改革推進会議の提言を受け、政府が種子法廃止を「閣議決定」。瞬く間に衆議院と参議院を通り、廃止法案が成立しました。
大変、奇妙なことに、規制改革推進会議は「生産資材価格の引下げ」の一環として、種子法廃止を提言しました。
現実の日本では、別に種子価格が高騰しているわけでも何でもありません。何しろ、都道府県が種子法に基づき「公共財」として優良な種を提供するため、価格が安価に抑制されてきたのです。それにも関わらず、規制改革推進会議は「生産資材価格の引き下げ」として、安価な種子が提供されている根拠法である種子法廃止を提言。
しかも、提言において、規制改革推進会議は、
戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する。
と、種子法廃止について説明しました。
種子や種苗が「戦略物資」であることは、議論の余地がありません。また、政府は国家戦略、知財戦略として種子を管理するべきであることも、これまた当然の話です。
なぜ、戦略物資であり、国家戦略・知財戦略に基づき種子を管理しようとしたとき、手法が「民間活力の最大限の活用」になるのでしょうか。国家戦略として管理するならば、むしろ政府の関与を強めなければならないはずです。
それにも関わらず、実際には種子の提供を「ビジネス」と化し、民間活力ではなく「民間の利益最大化」に資するべく、種子法が廃止された。
例えば、三井化学アグロの「みつひかり」というF1の稲の種子価格は、通常の種の7~8倍です。結局のところ、民間のアグロバイオビジネスにとって、種子法の存在が「利益最大化」の障害になっている、という話なのではないですか?
いや、もちろんそうなのですが、悪名高きモンサントをはじめとするアグロバイオビジネス企業にとって、優良で多様化された種子が安価に提供されることを担保する「種子法」が、彼らの利益最大化の障害だったという話です。
というわけで、規制改革推進会議が「価格引き下げ」というお題目で、「国家管理」を強めるべき戦略物資の供給について、「民間活力」といったレトリックで廃止に持っていってしまった。
そもそも、規制改革推進会議は単なる諮問会議であり、しかも国会議員が委員なわけではありません。委員は、単なる民間人(民間議員ではありません)です。
規制改革推進会議に入りこんだ民間人たちが、明らかに矛盾する理屈を持ち出し、国会をパススルーし、日本の食料安全保障を破壊する法律を内閣に閣議決定させてしまう。
我が国では、もはや民主主義が成立していないのも同然なのです。
『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年5月20,22日号より
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