1日の平均勤務時間が11時間を超え、過労死のリスクが高いとも言われている小中学校の教員。ならば採用人数を増やし、現場の人手不足を解消させれば万事うまく行く、と思いがちですが…。無料メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』の著者で現役小学校教諭の松尾英明さんは、実際に大量採用したとある県で起きた事例を挙げ、「教員採用試験」の大切さについての持論を記しています。
採用試験の重要性
7月9日は、千葉県の教員採用試験だった。この採用試験というのは、学校現場にとって非常に重要な意味をもつ。
以前も書いた気がするが、記事を探しても見当たらないので再度書く。ずっと前に「東京教師塾」で、塾頭の原田隆史先生に次のような話を伺った(記憶を辿っているので、あやふやな面もあるがご容赦いただきたい)。
どの県のどの学校でも、多忙の原因の上位に「人が足りない」という声が上がる。そこで、ある県では対策として費用を投じ、教員を大量に採用して少人数学級を実現したそうである。これで担任の数も増え、教員の多忙化にも歯止めがかかるはず。
実際には、何が起きたか。以前よりも学級崩壊が多発し、多忙化に余計に拍車がかかったのである(予防に対し治療は10倍以上の労力を要する)。
原因の一つに、大量採用によって門戸が開きすぎたことが考えられるという。要は、今までなら採用しなかった人材をも、数が足りないのでとにかく採用することになる。そうすれば、本来なら教師の仕事への志がそんなに高くない人や、現段階では採用に適さない人材も含まれることになる(人材としては適しているのに試験に弱いという人も中にはいると思うので、その面ではプラスのチャンスでもある)。経験のない新規採用者が多いということも考えられるが、新規採用者の質も問われる形となった。
また、単純に数が増えることで、別のデメリットもある。どの学校でも、学級経営に特段力のある方がいると思う。私の地元を思い浮かべると、50代の女性ベテラン教員に多い(いくつになっても笑顔が輝いていて、若々しいのですぐわかる)。この人が40人の学級を見ていたのが、30人で済むことになる。つまり、力のある人の担当する人数も減るのである。そして、学校にいる子どもの絶対数は変わらない。これは、全体の利益としてはやはりマイナスである。身も蓋もない話だが、「より忙しい人に仕事を頼め」というのは、組織としては真理である。
要は学級担任を考える場合、量より質なのである。大量に採用するより、試験内容を吟味し、適した人材を厳選する方が大切なのである。そして、ここは結構ポイントなのだが、この場合の必要な「質」とは、格段晴らしい実践をする人のことではない。情熱があって一生懸命で、何とかかんとかやっていけそうな人物であれば満点なのである。そこさえ落とさなければ、現場としての最低基準は満たされる。
そう考えると、採用担当者というのは、非常に大切である。組織の中でも、最高の人格者が担当しているはずである。そう考えると、採用担当者というのは、大変重い仕事である。だから、試験を受ける側は、そういう人物を誤魔化すことは考えない方がよい。しかも膨大な数の人を相手しているのだから、選別の目も鋭い。面接を受ける際は、どうせ見抜かれていると腹を括ることである(だからこそ、服装のような全員が当たり前のところで無駄に印象を落とさないことが大切である)。
採用された後は採用試験とは無縁のようだが、実は大いに関係がある。我々の未来の仲間を採用するにあたり、果たしてどんな選別がなされているのか。採用試験に関心をもつことには意味があると思う。
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