MAG2 NEWS MENU

【驚愕】マスターが超能力者!?長崎四次元パーラー潜入記

メルマガ『大原さんちの九州ダイナミック』を漫画家の妻・大原由軌子と共同配信しているライターの大原広軌です。今回は長崎県東彼杵郡川棚町の「あんでるせん」のレポートをお送りします。「超能力を披露するマスターがいる」と全国的に知られるお店です。「死ぬ前に一度見ておきたい」との私の強烈なリクエストで訪問が実現しました。

全国から客が集まるので予約は必須。かぶりつきの席で見ようと思ったら2ヶ月前には申し込まないと厳しいそうです。別に私たちはそこまで思い入れはないので1週間前に予約を入れ出かけてきたわけですが――。

11時の開店を前に、すでに大行列です。そしてテント看板には「四次元パーラー」の文字が。ひらがなの店名と相まって、入店前からやるせなさが加速してゆきます。

30人も入れば満席という店内はこんな感じ。よくある地方の喫茶店というたたずまいでさして特筆することもありません。

そしてこちらが2ヶ月前の予約が必要な、マスターの超能力ショーを間近で見られる砂かぶり、限定4席。

ちなみに壁に飾られているのはこれまで訪れた著名人の方々。ソニーの井深大氏から劇団ひとりさんまで、硬軟取り混ぜてますという客層です。

客が着席すると以下のようなメニューが配られます。

そのメニューに貼られた赤いシール。なんだこれは。と、メニュー下部に注意書きを発見しました。

誠に申し訳御座居ませんが ただ今オーダー制限中です
少しでもショーの時間を長くするためですので
●印の物をご注文下さい 御協力 宜敷くお願いします

なるほど。まあ食べ物には期待していないので何を選んでも、とオーダーしたのはビーフカレー788円。「カレーだったら失敗はないだろう」というリスクヘッジ心が働いたというのも事実です。が。

料理が供されるのにそこから1時間。30人分のオーダーをマスターが一人でこなしているという状況を鑑みても、あまりに時間がかかりすぎです。はるばる大阪から訪れたという家族連れの小さなお子さんはぐずり疲れて眠ってしまっています。

で、ようやく運ばれてきたカレーに添えられているスプーンはもちろん――

マスターがねじったというお約束の一品。さっそくいただきます。が……。海外の刑務所ならば暴動の元になってもおかしくないようなカレーです。

それでもなんとか胃の腑に押し込み、待つことさらに1時間ほど。マスターの奥様と思しきママさんが各テーブルを回り飲食代金を徴収、その際に「あなたは21番、そちらの方は22番」と客に番号をふっていきます。先ほどのカレーといい、もう刑務所感満載。この時点で帰ろうかとさえ思いましたがグッと堪えて超能力ショーの開幕を待ちました。

数分後、再びキッチンから現れたママの指示で、ショーが行われるカウンターまわりに客が集められます。それもこんな有り様。

そこに登場したマスターがひと言

「こちらから見ると修学旅行の集合写真撮影みたいでマヌケですね~」。

あんたの嫁の指示でこうなったんじゃないか。

などと、ショーが始まるまで2時間以上も待たされたこともあり悪態のひとつもつきたくなりましたが、ここからは物凄いものがありました(ショータイム中の写真撮影はご法度とのことなので、すべてイラストで進めさせて頂きます)。

手始めに軽ーくエスパーカード当てなどをこなしたマスターでしたが、それからは大技の連発。まずはコーラのラベルを半分だけボトルの中に通すと言い張ります。

ボトルを包むように持ち、数秒経ってカウンター上にドン!すると

見事です。完全にボトルの中に入っています。しかも前面半分だけ。

続いてはルービックキューブの早合わせ。世界記録は6秒弱とのことなのですが、それを抜くと豪語。砂かぶりの客に無茶苦茶に崩させたキューブをやおら頭上に掲げると

とのセリフとともに2秒で完成形に!客席からは感嘆の声が上がります。気づくと私自身も先ほどまでのささくれ立った気持ちはすっかり失せ、ショーに没頭していました。タネがあったとしてもいいんです。あのカレーが800円近くしても、これだけの技を見せてもらえるのならば安いものです。

さらに大技は続きます。今度はビール瓶を絞ってねじるというではないですか。もちろんこちらもパーラーで普通に出しているものとのことで、複数の客に硬度を確認させるマスター。その上で絞り上げていきます。

そして数秒後には

うまいこと砂かぶり席の真後ろに潜入していた次男坊・レイは大興奮です。このあとカウンター近くにいた男性客にビールの中身がふるまわれましたが、味はやっぱり通常のビールだ、とのこと。

ところでこのマスター、ショーの最中にやり取りする客にいちいち「誰それに似ていますね」といじるのですが、年配の方には「三船敏郎」「オードリー・ヘップバーン」、若手には「織田裕二」「チェ・ジウ」などなど、褒めようとしてはいるのでしょうがそのチョイスの基準が分からない。しかし言われた方はまんざらでもないようで、客席は和やかな雰囲気に変化していきます。これもショーで培ってきたマスターなりの芸風なのでしょう。

そしてお待ちかね、いよいよ客参加タイムがスタートです。カウンターの上には番号が書かれた木札が入った瓶が用意されます。先ほどママからふられたナンバーは囚人番号ではなくここで必要になるわけだったんですね。マスターに指名された客が札を抜き、その番号をふられていた客がショーに参加する、という算段です。と、いきなり私がマスターと絡むことになりました。さあ、俺を誰に似てると言ってくれるのか。

「今日はどこから来たんですか、ビッグダディさん」

客席大爆笑。……林下さんですか。横にいる嫁は佳美ですか美奈子ですか三由紀ですか。じゃあご希望通りに乗りますよマスター。

「盛岡からです」
「えーっ!遠いところをわざわざありがとうございます!」

どうやらマスター、こちらのネタ合わせを本気にしてしまったようです。まあ大勢に影響はないので良しとしましょう。

さて本題です。ゲームのルールは至って簡単、私がトランプの山から選びコーナー部分を破ったカードを再び山に戻し─

と言って

額に叩きつけるマスター。すると

わかってるんです。タネはあるはずなんです。でもこうして目の前でやられると、驚きの感情以外は出てこなくなってしまうんです。それで充分じゃないですか。サンボマスターのボーカルだったらきっとこんなセリフを吐くと思います。

ちなみにこの時の切れ端は「財布に入れておくとお金が貯まる」とマスターが言うのでそうしてます。

その後もアメイジングなショーは進み30名の客は何度も息をのまされますが、大トリのネタには完全にやられました。例によって番号札の抽選で選ばれたのは、なんと嫁の由軌子。彼女を木村多江に似ているといじった後にメモ用紙を渡し

「何でもいいです、動物を描いてください、まわりの人には見せないでくださいね」

と言うマスター。この流れだと何の絵を描いたのだか当てる、そんなところでしょう。さらさらと描き進め、言われた通り手のひらで他人に見えないようガードする嫁。するとマスターが

「実は今朝、この店に何というお名前の方がどんな絵を描くか、予知したんです。この中に入っています」

と言って、ショー開始時から置いてあったカウンター上の手帳を指差す。

「あなたが書いたのはヘビじゃないですか?」

それを聞いた嫁が

「えっ!?キモチ悪い…」

と小声で言います。どうやら当たっているようです。さらに続けるマスター。

「たいがいの方はヘビを描く時にはとぐろを巻かせますが、ゆきこさんは違いますね」

今なんつった?さりげなく「ゆきこさん」って言わなかったか?こちらのそんな思いをもてあそぶように、手帳のポケット部分から二つ折りにされた紙片を取り出すと

大当たりだマスター!写真で比較するとこの通り

右が漫画家としてどうなのかと思わざるを得ない嫁の絵。左がマスターがこの日の朝7:38に予知したというイラストです。

「yukikoという名前の方が、この絵を描きます」

とあります。これには客席全体からこれまでになかったような”畏怖”に近い声が上がりました。すごい。この人は本物の超能力者なのかもしれない。そんな雰囲気の中、マスターはショーの終わりを告げ、嫁へのお礼として自分がぐにゃぐにゃに曲げまくったフォークをくださると言う。

なんでも、特別なパワーを充填してあるから部屋に飾っておけばいいことがある、とのこと。そして

と、同じく曲げられたスプーンを取り出した。さすが太っ腹だな、参加賞までくれるのかと思いきやこちらはひとつ300円。けれどもこれまでの2時間近いショーの衝撃的な内容にすっかり冷静さを失った客は、友人知人へのお土産として一人何個も買い求めています。見たところ平均三つは行っているようでした。計算してみましょう。800円のフードメニュー+300円のスプーン×3=1700円。客は毎回30人入るらしいので1回5万1千円、そして1日2ステージこなしているとのことなので日の売り上げは10万円を超えます。店休日は第1・3日曜のみということは月に300万円近い金額が彼の元に入っているということではないですか。

超能力は金になる。

まったくわけのわからない結論に達したレポートですが、あのスプーン、300円なら安いもんですよ。「kouki」とネームまで入れてもらえますし。

手品だろうと超能力だろうといいのです。一度見ていただきたい、そんな思いにさせてくれるステージでした。

 

『大原さんちの九州ダイナミック』

著者:大原広軌(おおはら こうき)
1969年、東京生まれ。フリーランスライター、構成作家。代表作は『精神科に行こう!(文春文庫)』。妻は漫画家の大原由軌子。2011年、家族とともに妻の実家がある長崎県佐世保市に移住。現在は夫婦でメルマガを配信しつつ、様々なメディアに寄稿する日々を送っている。
≪無料サンプルはこちら≫

「まぐまぐニュース!」の最新更新情報を毎日お届け!
まぐまぐ!の2万誌のメルマガ記事から厳選した情報を毎日お届け!!マスメディアには載らない裏情報から、とってもニッチな専門情報まで、まぐまぐ!でしか読めない最新情報が無料で手に入ります!規約に同意してご登録ください!

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け