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第92回:“クルマらしくない”のが奥深い

2018.05.29 カーマニア人間国宝への道 清水 草一

デザインは自動車会社を映す鏡

前回まで続いた中村史郎氏インタビューは、私に猛烈に多くのことを教えてくれた。我々カーマニアは、クルマをカスタマーサイドからしか見ていないが、作り手はどうやってクルマを世に送り出しているのかを、最も不確定要素の大きいデザイン分野から、見せてくれた。

たとえば、史郎さんのこういう言葉があった。

「技術は積み重ねだから、前より悪くなることはまずないですけど、デザインは前より悪くなることがいっぱいあります。デザインは必ずしも積み重ねではないですから」

言われてみればその通りだと理解できるが、カスタマーは王様だから、「なんで前よりカッコ悪くするんだよ!」としか思わない。しかし、自分が作り手側にいると仮定すれば、デザインは最大の不確定要素であることにすぐに気づかされる。

確かにデザインは悪くなることが間々ある。ブランド全体がデザイン的に低迷したり、逆に快進撃を続けたりする。

「デザインは、自動車会社を映す鏡なんですよ。会社の健康状態がすべて出てしまう。会社がダメな時はデザインもダメです」(中村史郎氏)

これまた、言われてみればなるほどだ。技術は積み重ねだから、会社組織が健全ではなくても、退歩することはない。しかしデザインは水もの。元気であるかそうでないかは、そこに端的に表れるのだ!

今回は、3時間半にわたって行われたインタビューのまとめとして、中村史郎氏の言葉を振り返りながら、日本的自動車デザインについて考える。
今回は、3時間半にわたって行われたインタビューのまとめとして、中村史郎氏の言葉を振り返りながら、日本的自動車デザインについて考える。拡大
インタビューでは中村氏の本音発言が数多く飛び出した。
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キューブがスポーティー!?

では、カーデザインの作り手側は、何を目指しているのか。

「カスタマーの潜在的なニーズ、日産では“アンメットニーズ”と言ってましたけど、カスタマー本人が気づいてないニーズ、今まで見たことのないニーズ。それを想像してコンセプトを作らなきゃいけない。ひょっとしたらこんなものを求めてるんじゃないか、という」(中村史郎氏)

世界に衝撃を与えた「ジューク」のデザインも、そういう模索から生まれたのだ!

私のような保守的なカーマニアは、すでに価値観が出来上がってしまっているので、その新しさに欲望が湧き立つところまでいかないが……。

史郎さんは、ジュークについて、「一見とんでもなく見えるけど、クルマのデザインの作法として押さえるべきところは全部押さえている。ヘンなクルマじゃないんですよ。クルマらしさはちゃんとあるんです。だから自信はありました」と語っていた。

クルマらしさという点では、私が「史上初の成功した和風自動車デザイン」と呼んでいる、2代目・3代目「キューブ」もそうだという。

「キューブって、クルマらしくないでしょう。でも、実はとてもスポーティーでクルマらしいんです」(中村史郎氏)

キューブがスポーティー!? 冗談言ってんじゃねぇよ! と思われるかもしれない。しかし、キューブをやや斜め後ろから見ても、反対側のリアフェンダーが少し見える。つまり、キューブ(立方体)と言いつつ、実は上から見たボディーラインはかなりラウンドしていて、その分オーバーフェンダーが外側に踏ん張っている。そこにカッコよさを感じるようにデザインされているのだ。

だからこそ、英国の本『世界を変えたクルマ50台』に、キューブが入れられたのだろう。

「日産ジューク」
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2代目「日産キューブ」
2代目「日産キューブ」拡大
3代目「日産キューブ」
3代目「日産キューブ」拡大

“クルマらしくない”のが奥深い

が、現在の日本人のデザイン感覚は、そこからもう少し先に行っているようにも思う。もっとクルマらしくない、もっとかすかなスポーティーさに心を奪われている。

その良き典型が、先代「N-BOX」(「カスタム」ではないノーマル系)だ。キューブよりはるかに重心が高い縦長の箪笥(たんす)型、スピードへの欲望をほぼ完全に捨てた色即是空フォルムでありながら、足元(特に前輪)のみ強いオーバーフェンダー的な造形を持っている。そのかすかなクルマらしさが心の琴線に触れる。現行N-BOXでその良さが薄まったのは残念だが。

先代N-BOXに比べると、2代目・3代目キューブには、かなり健康的なクルマへの欲望が感じられる。だからこそイギリス人も、その和風デザインをクルマのひとつの在り方として消化することができた(推測)。しかし日本人はその少し先を行っている。そんなことを思ったりする。

最近私が、街で見るたびに目を奪われるクルマ。それはダイハツの「ハイゼット カーゴ」(マイナーチェンジ版)だ。

ハイゼット カーゴのフォルムは、N-BOXよりさらに機能に特化しているが、だからこそ、フロントフェイスの台形的な踏ん張りが力強くたくましく、妙にカッコよく感じられて仕方ない。

これはつまり、スイカに塩を振るとその甘みがより強く感じられるように、アイフォーン的機能の中のかすかなクルマらしさ(=甘み)に、舌が痺(しび)れるのだ!

日本的な、「クルマらしくない自動車デザイン」も、掘れば掘るほど奥が深そうな気がする今日この頃なのでした。

(文=清水草一/編集=大沢 遼)

初代「ホンダN-BOX」
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『CARトップ』誌で「ダイハツ・ハイゼット カーゴ」を取材中の筆者。中村氏もこのクルマに注目していたとか。
『CARトップ』誌で「ダイハツ・ハイゼット カーゴ」を取材中の筆者。中村氏もこのクルマに注目していたとか。拡大
「史郎さん、ありがとうございました!」
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清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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