アルファ・ロメオ アルファGT クアドリフォリオ ドーロ(FF/5AT)【試乗記】
枯れない四葉 2010.10.05 試乗記 アルファ・ロメオ アルファGT クアドリフォリオ ドーロ(FF/5AT)……385万円
アルファ・ロメオの「アルファGT」に限定車が登場。伝統のゴールド・エンブレムをいただくスポーティクーペは、さて、どんな走りを見せる……?
ちょっと豪華ですごくレア
車名の「ドーロ」(d'Oro)とは、イタリア語で「金色の」という意味。つまり、「クアドリフォリオ ドーロ」で「黄金の四葉(のクローバー)」である。アルファのスポーツモデルに付く四葉のクローバーは「ヴェルデ」(緑色)がよく知られ、その起源は1920年代のレーシングカーまでさかのぼる。ウーゴ・シボッチというドライバーが「アルファ・ロメオ RL」に描いたのが最初で、そのクルマがレースに勝ったことから、みんなが験を担いで描くようになったらしい。まあ、一種のお守りだ。
では、金のクローバーの効能は? カタログを読むと、特にレースや勝利とは関係がないらしく、豪華架装を施したモデルに与えられた、とある。そして最初にこのバッジを付けたのが、1960年代末から1970年代初頭に販売された105系(ジュリア・クーペ)の「1750 GT ヴェローチェ」だったそうだ。
ふーん、そんな歴史があったのか。知らなかった。筆者はまさにそのクルマに7年間乗ったが、「オレのはドーロだゾ。豪華なんだ」なんて認識したことは一度もなかった。確かに、インパネには木目パネルが張られ、ステアリングはヘレボーレ社製のウッドタイプだったりと、豪華志向ではあったけれども。不勉強の照れ隠しではないけれど、ほかにどんな「ドーロ」があるのか知りたくなって、アルファの博物館「ムゼオ・アルファ・ロメオ」に行ったときに撮った大量の写真を当たってみたが、意外にないものである。緑や白や銀は簡単に見つかる。しかし、クリーム色の地に金の四葉というのは珍しく、なかなか見つからないのだ。結局、「アルフェッタ・スパイダー」(1972年のショーモデル)ぐらいだった。
「アルファGT」の「ドーロ」はわずか60台の限定モデルだから、街中では四葉のクローバーと同じぐらい希少になりそう。ボディカラーはアルファ・レッドのみで、ナチュラルカラーのレザー内装と、18インチの5本スポークホイールが目印。エンジンは2.0JTSでハンドル位置は右のみ。まあ目立って豪華な仕立てではないが、アルファ100周年の“コンピレーションもの”ということで、こういうのも粋でイイではないですか!
熟れに熟れてる
一見ノッチバッククーペに見える「アルファGT」だが、実はれっきとしたハッチバッククーペである。大きなハッチゲートを上げれば、通常(4名乗車)時で320リッター、リアシートを畳めば905リッターものラゲッジルームが現れる。世に4シーターをうたう2ドアクーペは多いが、このボディサイズでここまでちゃんと座れるものはそう多くはない。
しかも、この気品あるスタイリング。ベルトーネの仕事は、その点“耽美(たんび)的”にすぎたピニンの「アルファGTV」とはひと味違うのである。このパッケージングを秀逸と呼ばずして、何と言おう。
もっとも、その大きなハッチゲートが災いしたか、初期の「アルファGT」はボディ剛性が十分とは言えなかったように記憶している。またマニュアルベースのセレスピード・トランスミッションのシフト時におけるトルク変動が小さいとは言えず、スムーズに走らせるためにはそれなりにコツを必要とした。だから今回も、正直言って走りに関してはあまり期待はしていなかった。
しかし筆者は、どうやら「アルファGT」を見くびりすぎていたようだ。ボディの緩さも特に感じなかったし、セレスピード・トランスミッションも改良が重ねられたらしく、変速が格段に巧みになっていた。
たとえば基本性能の古さを無視して太いタイヤを履かせたり、モデル末期になると、売らんがための方策によってバランスを崩してしまうクルマが少なくない。しかし、「アルファGT」は大丈夫のようだ。熟女ならぬ“熟車”として、ますますクルマ盛りを迎えている。ただ、もったいないと思えるところが、まったくないわけではない。
味付けは、やや「?」
一番もったいなく思えたのは、乗り心地である。225/40R18という立派なサイズのタイヤを履きこなすために、本来より(=本国のベーシックな仕様より)サスペンションの設定がハードになっていると思われるが、アルファ・ロメオの真骨頂ともいえる足まわりの軽やかでしなやかなタッチがうせてしまっている。これは残念。路面のちょっとした荒れに遭遇してもゴツゴツとした感触を伝えてくるばかりで、心地良いとは言いがたい。
同様にハンドリングも、本来アルファが特徴としていたものとは少々違う。アルファはむしろロールを積極的に許して粘るスタンスを持ち味としていたが、「ドーロ」はロック・トゥ・ロックで2.3回転というクイックなステアリング、硬めの足まわり、そしてグリップにたけたピレリPゼロ・ロッソといったものに寄りかかったスポーティさが演出されている。
数年前までは、“ゲイン命”みたいなハンドリングがスポーティカー界に常識になっていた感がある。しかし、今はいわゆる統合制御デバイスで二面性を演出したり、あるいはピーク値ではなくリニアなフィールを目指したりと、ハンドリングのトレンドが変わりつつあるように思える。
そういう意味でもこの「アルファGT」、もはや古さが隠せなくなってきたのは事実だが、それを補って余りある魅力を備えているように思う。
(文=竹下元太郎/写真=小林俊樹)