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   幸せ家族計画

題目:バイナリィランド
                     
■メーカー:ハドソン
■メディア:FC
■ジャンル:アクション
■発売年 :1985年



「男女愛」をテーマとした作品は星の数ほどあれ、その最高峰に位置するのは恐らく『ドラクエX』、
そして本作ではあるまいか? 何しろ、単にその男女だけで締めず、そこから続いてゆく者まで…。











命懸けのおノロケ

 ゲームの目的だが、ズバリ言うと
「逢引き(デート)」。二羽のペン
ギン・グリン(雄)とマロン(雌)
を操り、入り組んだ迷路を走破。所
定の位置でご対面(と言うか、キッ
ス)することにある。
 どういう経緯でそんなステージに
放り込まれたのかは知らないが、そ
んな状況下でも一途にお互いを想う
気持ちは見上げたものである。まっ
こと「恋は盲目」を体現しているよ
なあ。この逞しさ、「恋に恋してい
る」今の少年少女らは見習うべきじ
ゃないかねえ。


複雑怪奇な迷路に分断された二羽。
『ロミオとジュリエット』を凌ぐ愛の闘いが始まる!


 その道のりをクモやその巣、火の玉などが阻むが、そんな妨害など何のその。スプレーや
無敵アイテムで蹴散らしながら突き進む2羽の姿には、可愛さ余って逞しさすら感じるほど
である。惹かれ合う男女は地球と月の潮汐作用(質量差によって生じる引っ張り合い)の如
しか…。小林よしのり御大のおっしゃる通り、愛とはどとー(怒濤)なのかも知れん。

迷路内にはクモとその巣がウジャウジャ…。
無敵の鯨(なぜ?)パネルの力で殲滅せよ!

邪魔するクモどもにはスプレー一閃!
生き物同士でも、恋路を阻む者には容赦せず。











一人同時プレイ!?

 さて、本作はパズル的要素をはらんだアクションゲーム。故に、愛とテクニックだけで進んで
ゆけるものに非ず。なかなかどうして、頭と神経を尖らせてプレイに臨まなければならない。そ
の由縁は、他のゲームみたいな「一点集中」でなく「二点分散」なことにある。



迷路に佇むペンギン二羽。
パッと見、知らない人は二人同時プレイかと…。
 プレイヤーキャラは上記の通り、
つがいのペンギンであるグリンとマ
ロン。その二羽を上部のゴール地点
で会わせることが目的となる。
 知らない人が聞くと、どちらか片
方を選んでパートナーに会いに行く
ゲームの様に思うことであろう。だ
が、ここが本作がよそのゲームと一
線を画す点。何と、二羽を同時に操
作してゴール地点まで導かなければ
ならないのである。無論、一人のプ
レイヤーがひとつのコントローラー
のみを用いて!



 二羽に共通する操作は、Aボタンによるスプレー及び上下移動。しかし、左右に関しては真
逆の動きをする。つまり、一方が右に動けばもう一方は左に行ってしまうということ。この独
特の操作系こそが本作の持ち味であり、そこから独自のゲーム性が産み出されたと言える。


 このゲームは、一人のプレ
イヤーがふたつのキャラクタ
ーを完全同時に面倒を見る必
要がある。迷路によって二分
割されたステージの、左右そ
れぞれにキャラが一羽ずつ。
それらを同時に操って目的を
遂行しなければならない。も
ちろん、行動や出来事も二羽
別々だから、片方にかまけて
いてもう片方がピンチに…な
んてことはザラである。
 どちらも疎かにはできない
わけだが、残念ながら人間の


画面を埋め尽くすクモと巣、不死身の火の玉、
場所が逆転するトリッペ…。頭と目が沸騰する!
ほとんどは一点集中タイプ。
両方を同時に意識しながらプ
レイ、などという器用な芸当
はなかなかできるものではな
い。従って「超高速で代わり
ばんこに面倒を見る」という
のが基本スタイルになるかと
思う。しかも、上記の様に左
右の動きが逆だから、慌てる
とすぐにパニックに陥ってし
まう。常に冷静沈着で、仕事
をパートごとにキチッと区別
できる者がこのゲームをこな
せるんだろうなあ。



 ゲームの発売当時はまだ小学生であった筆者だが、
ゲーマーとしてまだまだ未熟だったあの頃は本当に大
変であった。
 つい熱中してしまって、操作が左右逆なのも忘れて
「あれ〜!? 押してるのに進まない!」とかわめいち
ゃったり^^ TVコマーシャルで言っていた「右目と
左目がこんがらがるぞ〜」の、まさにそのままであっ
た。しかも当然制限時間があるから余計に焦る! そ
してミスしてから「ハッ、操作は左右反対だった!」
と気付いてクールダウンしちゃうわけ。今となっては
微笑ましい思い出である。こうしたミスや障害の繰り
返しで、人は物事を冷静・客観的に捉えて対処できる
眼力を養ってゆくのかなあ…。

それでも、最初のステージはこんなにシンプル。
気負いせずに徐々に慣らしてゆくが良。











ペンギンの皮を被った荒鷲

 この『バイナリィランド』、見た目の通り「可愛さ」を前面に押し出した作品である。



画面中を埋め尽くすハート群…。
古来から、最も解りやすい「愛の象徴」なり^^
 まずプレイヤーキャラが、ラブリー動物として
世界的に愛されている「ペンギン」。メルヘンチ
ックな色使いに、いかにも女の子が好みそうなデ
ザインのアイテム群。メインBGMに、フランス
の作曲家エリック・サティ(1866〜1925)の『ジ
ュ・トゥ・ヴー(あなたが欲しい)』を引用。そ
してパッケージイラストに、仲むつまじく寄り添
うグリンとマロン…。
 昨今の『ゆるキャラ』ブームを先取りしたかの
様な「愛情」政策に、数多くのラブリストが引っ
掛かったものであった。実際、デパートの売り場
とかで「女の子向け!」とかの添え書きがあった
りしたし。見た目だけで判断するなら確かにその
通りではあった。



 しかし、実際のゲームは上で書いた通りかな
りの手応えもの。今やっても七転八倒する高難
度である。「技能」よりも「頭脳」に重きを置
かれた内容だけに、メインFCユーザーの小学
生達は大苦戦であった。
 当時はテクニカル系のアクションとシューテ
ィングが主流ジャンルであったため、こうした
冷静な判断力を求められる作風は少し早過ぎた
感さえある(実際、同時に発売された『ボンバ
ーマン』の方は、その本能に直結する解り易さ
と爽快感によって大ヒットしているし)。ナム
コの『スターラスター』といい、本当惜しいよ
なあ。ユーザーの程度をゲームの進歩が上回っ
た結果のハズレってのは…。

ラブリーな光景の本質は、ハードな生存競争!
どうせならクモも可愛く描けば良かったのに。



目的のためには、涙を飲んで伴侶を見捨てねば
ならない場合も…。愛の厳しさを知るいい機会?
 更に言うなら、当時のFCユーザーはまだ圧倒的
大多数が男の子。当然、その主要層を対象とした作
品作りが基本となるだろうし、本作とてゲームシス
テム的にはその範疇であろう。だから別に「女の子
向け!」も何も無いわけ。故に、ゲーム入門志願の
女の子が見た目の可愛さにつられて本作を購入し、
その高難度に打ち負かされた…なんてこともあった
のでは?(筆者も1件知っている)
『ナッツ&ミルク』『ツインビー』あたりは、その
ポップな雰囲気と程良い難度で女性ユーザーの開拓
に成功していたけれどなあ。結局、テレビゲーム市
場への女性ユーザーの本格進出は、『ドラクエV』
からなのであった。ちょっと脱線話題だが、一応触
れておく。


 このゲームはつくづく「見た目で決め付けて
はいけない」ということを考えさせてくれる。
可愛いからといってユルイとは限らないし、い
かついからといってキツイとも言えまい。物事
の本質は自らぶつかってみて知るしかないので
ある。そして本作はまさに、冷静沈着で思考
に秀でたユーザー向けという「大人ゲー」で
あろう。なおかつ「可愛いもの好き」ならば
言うこと無し^^ 現在30歳前後の女性ゲーマ
ーや同人家向けと言えるかも知れないなあ。











恋仲→夫婦→家族

 最後に、当作品の最大の名物フューチャーを解説して締めとしよう。


 グリンとマロン、このつがいのペンギンが
あることをすると、とってもラブリーな子ペ
ンギンが誕生! 迷路を元気に駆け回り、あ
らゆる敵を蹴散らしてくれるのである(つま
り無敵)。子供には無限の可能性が秘められ
ていることを示しているみたいでいいなあ。
 で、当時は子供で気付かなかったけれど、
これはつまりアレである。オスとメス、つま
り男と女があることをして子供が誕生――こ
れ即ち「交尾」ってことなんだよな〜。する
のがペンギンという「動物」であれ、児童向
け作品で「性交」を堂々と表現したのは後に
も先にも本作だけである。過激内容を可愛さ
でごまかした例としては、これがbPでは?

誕生、2羽の愛の結晶!(卵生じゃなく胎生?)
家族みんなで協力してゴールを目指します☆


 後の『ドラクエX』でも、プレイヤーの見ていない
ところで…だったから、これは結構凄いことじゃない
だろうか。他に思いつくところは『蒼き狼と白き雌鹿
ジンギスカン』のオルドシステムだが、あれは元々
パソゲーだし。全てに共通して言えることは、生ま
れてきた子供は「戦力」だと言うことか…。



幾多の障害を乗り越え、晴れてゴールイン!
2羽の物語は、これから更に織り成されてゆく…。
 本作発売当時、ハドソンでは社員の結婚式の
引き出物として、本作の限定バージョンが振る
舞われたという。それほど「結婚」「家族」と
いう事象にこだわった『バイナリィランド』、
夫婦や家族の絆を確かめ合うにはもってこいの
ソフトと言えるかも知れないなあ。
 戦後の日本社会からは「家族」「友人」「近
所」といった人間関係が廃れてゆく一方だが、
そんな時代にこそ本
作の示した指針が強く感じ
られる。一見ファンシーな世界に込められた、
どんな障害も乗り越えて一途に愛を貫く姿勢。
そしてそこから紡がれてゆく命の系譜――その
重きものを、本作に触れた人が感じ取ってくれ
れば幸いに思う。

(C)HUDSON SOFT 1985

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