甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
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Summary
甲状腺低分化癌は濾胞細胞から発生、分化癌(乳頭癌・濾胞癌)と未分化癌の中間的性質。先行病変なしに発生、乳頭癌・濾胞癌の遺伝子変異で発生する場合ある。腺腫様結節、乳頭癌・濾胞癌、橋本病の組織を40%未満む。サイログロブリン高値多い。先行病変なしの甲状腺低分化癌の超音波エコー検査所見は桑の実状・血流豊富・卵殻石灰化・内部低エコー、不均一。細胞診は乳頭癌の名残あるが小さく、濃く、不規則な輪郭、細胞分裂像。病理組織は乳頭状・濾胞状でなく島状(胞巣状)、索状、充実性、浸潤性。10年生存率は乳頭癌・濾胞癌より10-20%悪い。予後因子は腺外浸潤との報告。
Keywords
甲状腺,低分化癌,乳頭癌,濾胞癌,サイログロブリン,超音波,エコー,細胞診,予後,10年生存率
全甲状腺がんの約2%を占める甲状腺低分化癌は、甲状腺濾胞細胞から発生し、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)と甲状腺未分化癌の中間的性質を持ちます。手術時平均年令は、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)で48歳、甲状腺低分化癌で55歳、甲状腺未分化癌で63歳で、年令が高いほど分化度の低い癌が発生しやすいと言えます。(Cancer, 52: 1849-1855,1983.)(Indian J Pathol Microbiol. 2017 Apr-Jun;60(2):167-171.)
甲状腺低分化癌は、
甲状腺乳頭癌と甲状腺低分化癌のリンパ節転移率に差はないですが、甲状腺低分化癌は局所浸潤性と遠隔転移率は高いです。(耳鼻と臨床Vol. 36 (1990) No. 5Supplement4 p. 874-877 )
しかし、甲状腺低分化癌のリンパ節転移率は46.2%で高率との報告もあります(Chin Med J (Engl). 2016 Jan 20;129(2):169-73.)
隈病院の第10回神戸甲状腺診断セミナーでは、
分化度の低い甲状腺低分化癌のサイログロブリンは、低値と思われがちだが、実際はほとんどの症例で高値になる。甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)由来であり、かつ、それらより増殖能が高いためと推察される。(Diagn Histopathol 2011;17:114-23.)
甲状腺低分化癌の超音波(エコー)検査所見は、甲状腺乳頭癌由来であれば甲状腺乳頭癌の超音波所見、甲状腺濾胞癌由来であれば甲状腺濾胞癌の超音波所見になります。
先行病変なしの甲状腺低分化癌は、低エコー結節と言うより低エコー領域の表現が適切かもしれない。その内部は、
甲状腺低分化癌の細胞診は、
甲状腺低分化癌には腺腫様結節、甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞癌、橋本病(慢性甲状腺炎)の組織が40%未満含まれるため、低分化成分から穿刺細胞診しなければ、細胞診断できません。(Indian J Pathol Microbiol. 2017 Apr-Jun;60(2):167-171.)
甲状腺低分化癌の治療は、
甲状腺低分化癌の10年生存率は、
と言うように、予後の関しては、通常の甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)より10-20%悪いのみです。平均生存期間半年の甲状腺未分化癌とは全く異なります。よって、甲状腺低分化癌を、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)と甲状腺未分化癌の中間病変と考えるのは適切ではないと思います。
伊藤病院の報告では、甲状腺低分化癌の予後を決める因子は、腺外浸潤(甲状腺の外に広がっている)です。よって、甲状腺低分化癌の予後を改善するには、全て採りきる根治切除を目指す必要があります。(第55回 日本甲状腺学会 O-03-01 甲状腺低分化癌の予後因子)[Endocr Pract. 2021 May;27(5):401-407.]
低分化細胞の比率≧60%、腫瘍内壊死、高い細胞分裂数、リンパ節転移、血管浸潤および遠隔転移があれば予後不良で、診断後3年以内に死亡するとされます。逆に、若年者ではリンパ節転移、遠隔転移なく予後良好とされます(Indian J Pathol Microbiol. 2017 Apr-Jun;60(2):167-171.)。
甲状腺癌取り扱い規約第7版では、低分化癌の診断基準はWHO分類と整合性がとられ(無理にすり合わせたとしか思えませんが)一部改変され、「低分化成分が腫瘍の50%以上を占め、乳頭癌に典型的な核所見はみられない」と言う事になりました。
これは、甲状腺の臨床を行う者にとっては、極めて非現実的で、顕微鏡で見える物しか見えない病理屋さんの(臨床の現場を知らない)発想です。
甲状腺癌取り扱い規約第7版に従うと、以下の甲状腺低分化癌乳頭癌型は存在せず、甲状腺乳頭癌充実亜型[充実型乳頭癌](solid variant)にまとめられてしまいます。しかし、本来の甲状腺乳頭癌充実亜型[充実型乳頭癌](solid variant)は、転移・浸潤するが予後良く、予後の良くない甲状腺低分化癌乳頭癌型とは似て非なるものです。病理屋さんにも困ったものです。
甲状腺低分化癌乳頭癌型は、すりガラス状の核、核溝など甲状腺乳頭癌の特徴をもつ細胞ですが、甲状腺乳頭癌よりも異形性が強く、甲状腺乳頭癌充実亜型[充実型乳頭癌](solid variant)とは明らかに異なります。(前項 甲状腺低分化癌の超音波(エコー)細胞診 参照)
甲状腺低分化癌乳頭癌型は、乳頭状・濾胞状配列はなく、胞巣状(島状)構造
甲状腺腫瘍WHO病理分類第5版(2023年度版)では高異型度濾胞細胞由来非未分化癌(High-grade follicular cell-derived non-anaplastic thyroid carcinoma)なる亜分類が制定されました。
高異型度濾胞細胞由来非未分化癌=低分化癌+分化型高異型度癌=未分化癌成分(著明な細胞分裂像や腫瘍壊死)を含まない濾胞細胞由来の癌
とされ、高分化癌と未分化癌の中間予後を示す甲状腺癌をまとめたものです。
※分化型高異型度癌(Differentiated high-grade thyroid carcinoma)=高異型度分化癌(High-grade differentiated carcinoma)→増殖能が高い(悪性度が高い)甲状腺乳頭癌亜型
高異型度濾胞細胞由来非未分化癌の
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