3600年前の超巨大「ミノア噴火」、津波の犠牲者をついに発見

エーゲ海のサントリーニ火山、史上最大級の火山被害と推定

2022.01.04
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
19世紀に近くで噴火した時のティラ島(サントリーニ島)の様子。手前がティラ島で、カルデラの縁の一部だ。ここから160キロ以上離れた場所で、青銅器時代の噴火とそれによって引き起こされた津波の新たな証拠が見つかった。(COLOUR-PRINTED ENGRAVING VIA UNIVERSAL HISTORY ARCHIVE/UIG/BRIDGEMAN IMAGES)
19世紀に近くで噴火した時のティラ島(サントリーニ島)の様子。手前がティラ島で、カルデラの縁の一部だ。ここから160キロ以上離れた場所で、青銅器時代の噴火とそれによって引き起こされた津波の新たな証拠が見つかった。(COLOUR-PRINTED ENGRAVING VIA UNIVERSAL HISTORY ARCHIVE/UIG/BRIDGEMAN IMAGES)
[画像のクリックで拡大表示]

 約3600年前の後期青銅器時代、エーゲ海の火山島が噴火し、破壊的な津波を引き起こした。その津波による犠牲者の遺骨が、最近になって、噴火したティラ火山(現在のサントリーニ島)から160キロ以上離れたトルコの海岸で初めて見つかり、12月27日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。

 史上最大級の火山被害をもたらしたと推定されるこの「ミノア噴火」は、火山爆発指数で「超巨大」の7に区分され(最大指数は8)、その規模は広島型原爆の数百万発分に相当するとみる専門家もいる。津波の犠牲者は数万人と推定されるが、なぜかこれまで遺骨は見つかっていなかった。

 恐ろしい災害の記憶は長い間語り継がれ、発生から1000年以上後になって書かれたプラトンのアトランティス伝説の下地にもなったと考えられている。また、旧約聖書の出エジプト記に記されている10の災いも、この噴火によるものではと考える学者もいる。火山灰に埋もれたミノア人の古代都市アクロティリは、しばしば古代ローマのポンペイと比較され、今では人気の観光地になっている。

[画像のクリックで拡大表示]

 噴火とそれによって引き起こされた災害の直接的な証言は記録されていない。しかし現在、災害の規模はどれくらいだったのか、地中海沿岸に住んでいた人々にどのような影響を与えたのかを明らかにしようと、研究が進められている。ティラ島のすぐ近くにあるクレタ島を中心に海洋交易で富を築き上げたミノア文明は、ちょうど噴火が起こった時期から衰退を始めた。

クレタ島、クノッソス宮殿にあるミノア文明のフレスコ画。(PHOTOGRAPH VIA PRISMATIC PICTURES / BRIDGEMAN IMAGES)
クレタ島、クノッソス宮殿にあるミノア文明のフレスコ画。(PHOTOGRAPH VIA PRISMATIC PICTURES / BRIDGEMAN IMAGES)
[画像のクリックで拡大表示]

遺体は偶然見つかった

 犠牲者の遺骨は、エーゲ海沿岸の人気リゾート地チェシュメにあるチェシュメ・バウララス遺跡で見つかった。サントリーニ島からは北北東へ160キロ以上離れている。

 現在の海岸線から2ブロック離れた住宅地で、アパート建設中に古代の土器が発見されたことをきっかけに、2002年から発掘調査が行われていた。それ以来、現場からは保存状態の良い建物や道路の跡が発見され、紀元前3000年代半ばから紀元前1200年代まで、ほぼ継続して繁栄した集落が存在していたと考えられるようになった。

 ところが、2009年に新たに発掘作業の指揮を任されたトルコ、アンカラ大学の考古学者バシュフ・シャホグル氏が、別の場所を掘ってみると、出てきたのは倒壊した城壁や灰の層、割れた土器や骨、貝殻といった混沌としたものばかりだった。

 途方に暮れたシャホグル氏は、様々な専門家に助けを求めた。そのうちの一人が、イスラエルにあるハイファ大学の海洋地球科学教授ビバリー・グッドマン・チェルノフ氏だった。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるグッドマン・チェルノフ氏は、考古学や地質学の記録から過去の津波を見つけ出すことを専門としている。

 過去の津波の痕跡を特定するのは困難だ。倒壊した建物や火災の跡は、地震や洪水、嵐によるものと区別がつきにくい。おまけに、エーゲ海沿岸の乾燥した気候では、そうした証拠は急速に消滅してしまい、後に残らない。

 しかし、最近は研究が進み、過去に発生した津波を特定するための「チェックリスト」がかなり洗練されてきている。例えば、津波によって陸へ運ばれた海洋生物の痕跡、海からの堆積物や土砂によって形成された特徴的な地層などが手がかりになる。チェシュメ・バウララスでは、海から流されてきた甲殻類の塊が、倒壊した建物の壁に挟まっていた。

犠牲者のない史上最大級の自然災害?

 不思議なことに、これまでティラ噴火による犠牲者はほとんど見つかっていなかった。1883年にインドネシアのクラカタウ火山が噴火し、津波が発生した時には3万5000人以上が死亡したと推定されており、ティラ噴火でも同様の被害があったとされている。

 ところが、これまでに発見されているのは、19世紀の調査でサントリーニ諸島のがれきの中で見つかった男性の遺骨一人分だけだった。最新の論文著者らは、この男性は津波ではなく地震で死亡していた可能性があると考えている。そこで現在、その死亡時期や死亡時の状況、まだ研究に使えそうな遺骨が残っているかなどを確認するために、発見時の記録を調べている。

次ページ:数日から数週間で津波は4度訪れた

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
会員*のみ、ご利用いただけます。

会員* はログイン

*会員:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方、ならびにWeb無料会員になります。

おすすめ関連書籍

世界の天変地異 本当にあった気象現象

豪雨、豪雪、暴風、干ばつ、極寒、稲妻など、世界各地で見られる天変地異。迫力のある写真と、それぞれの状況を伝えるわかりやすいキャプションで、読む人に畏怖の念を抱かせる1冊。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:2,970円(税込)

おすすめ関連書籍

伝説の謎

事実かそれとも空想か

伝説は史実なのか、それとも作り話か。歴史上の有名な伝説に改めてメスを入れ、本当にあった出来事か、当時の人々の想像の産物だったのかを明らかにする。

定価:1,540円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加