新型コロナウイルスの影響で外食業界に閉店ラッシュが起きている。「三代目鳥メロ」を運営するワタミは、年内に約65店舗を閉鎖する方針だ(撮影:今井康一)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛を受け、外食業界は大打撃を受けた。緊急事態宣言は5月25日に全都道府県で解除されたものの、客足の戻りは緩やかなままだ。逆風が吹きつける中、外食業界では過去に例がないほどの閉店ラッシュが起きている。

国内に487店舗(5月末時点)を展開する居酒屋チェーンのワタミは、「三代目鳥メロ」や「ミライザカ」を中心に2020年内に約65店舗を閉店する方針だ。一時休業の影響により、ワタミの国内外食事業における既存店売上高は、4月は前年同月比で92.5%減、5月も同92.8%減と10分の1以下に落ち込んだ。

ファミレスや天丼チェーンも閉店に

同社の渡邉美樹会長兼CEOは6月11日に行われた新業態説明会の際、「コロナ後はワタミの居酒屋業態の売り上げは減少する見通しだが、5月にオープンした焼き肉の新業態やテイクアウト、デリバリー、宅食事業が成長して補う」と話した。

同様にコロナ影響を受けているファミリーレストランなど761店舗(3月末時点)を運営するロイヤルホールディングスは、天丼チェーンの「天丼てんや」など不採算の約70店舗を2021年12月までに閉店する。

九州を地盤とするファミリーレストランチェーンのジョイフルも、直営店の3割にあたる約200店を7月以降に閉店していく。

店舗営業時間の見直しに着手するチェーンも多い。

「ガスト」や「バーミヤン」を擁するすかいらーくホールディングスは、今後も深夜時間帯の需要が減少するとみて、グループ全店の退店時刻を原則23時半とし、従来より2時間ほど早めた。その数は、グループ店舗数3269店(5月末時点)のうち、約2600店にのぼる。

幸楽苑ホールディングスも、ロードサイドに構える「幸楽苑」の直営店の多くは24時に営業を終えていたが、7月以降は原則21時に営業が終了する。郊外店はもともと、深夜の売り上げが大きくなかったうえに、新型コロナを受けて客足が一層厳しくなったためだ。

新型コロナで36社が経営破綻

これまで外食企業はチェーン展開で店舗数を増やし、規模の拡大を目指すことが多かった。だが、東京商工リサーチ情報部の後藤賢治課長は「地元の常連客が通うような、街に根付く飲食店には客が入っている一方で、それほどのこだわりもなく消費者がフラっと入店していたような大手チェーン店は客足が厳しくなっている。大手の外食企業が強い、という印象が変わってきている」と、外食業界を取り巻く環境の変化を指摘する。

店舗の閉店にとどまらず、経営破綻する企業も現れている。東京商工リサーチによると、新型コロナを原因に経営破綻した企業は6月10日時点で235社。このうち飲食業は36社にのぼる。

7〜8月は、さらに飲食業の倒産が増えそうだ。「新型コロナの影響で裁判所が業務を縮小していたので、5月中は破産申し立て業務が滞っていた。足元では裁判所の業務が通常時に戻りつつあり、倒産件数は今後増えていくだろう」と後藤課長はみる。

これまでの倒産は中小企業がほとんどだったが、今後は大手でも存続の危機を迎える可能性がある。中でも、「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスについては資金ショートの危険性が懸念されている。

いきなり!ステーキは厚切りの大きなステーキが安い価格で食べられることが人気となり、2017年ごろに立ち食いステーキブームを巻き起こした。しかし、度重なる値上げに加え、自社競合を考慮しない急速な出店拡大があだとなり、次第に消費者が離れていった。既存店売上高は2018年4月以降、25カ月連続で前年同月割れが続いている。

ペッパーフードサービスの2019年12月期の売上高は前期比6.3%増の675億円となったものの、7100万円の営業赤字に転落。純資産はわずか5.9億円、自己資本比率はわずか2%にまで低下した。その後、3月になって、資金繰りに懸念が生じていることなどを理由に、同期の有価証券報告書には「継続企業の前提に関する事項」の注記がついた。

追加閉店の可能性も

2020年12月期に入っても客数の減少は続いている。既存店売上高は2月が前年同月比で38.7%減、3月は48.9%減、4月の62.6%減と落ち込み幅が深くなっている。5月も50.6%減だった。


消費者離れが止まらない「いきなり!ステーキ」(編集部撮影)

5月に入ると、新型コロナの影響で直営店全店を休業。緊急事態宣言の解除を受けて5月15日から営業を順次再開しているものの、国内429店舗のうち108店舗がいまだに休業中だ(6月9日時点)。17店舗の閉店がすでに決定しており、同社のIR担当者は「現在休業中の店舗もこのまま閉店することもありうる」と追加閉店の可能性を否定しない。

既存店の極度の不振は、運営会社の資金繰りを直撃している。2018年12月期末に67億円あった現預金は、2019年12月期末に24億円まで減少。月商の半分以下しかない水準に落ち込んだ。さらに「足元では現預金が10億円未満にまで減少していてもおかしくない」(東京商工リサーチの後藤課長)という。

苦しい資金繰りを打開しようと資金調達も進めてきたが、状況は芳しくない。2019年12月27日にSMBC日興証券を割当先とする新株予約権発行を発表し、約69億円の資金調達を目指した。しかし、株価は12月27日の終値1294円から下落を続け、3月6日の終値は644円と、新株予約権の下限行使価額である666円を下回り続けている。6月12日時点で調達できたのは17億円にとどまる。

6月1日には、ペッパー社に11.6%出資する第2位株主で、主要な仕入れ先である食肉卸・エスフーズの村上真之助社長個人から有担保で20億円を借り入れた。ところが、この借入金の返済期限は7月末。営業を一部再開した6月分の原材料費の支払いが7月20日に控えていることもあり、後藤課長は「7月20日から同月末が資金面の山場」と指摘する。 

同じく6月1日には、前期部門黒字のペッパーランチ事業を新設子会社に分社化した。外食業界では「この子会社を売って資金を得るつもりではないか」など憶測も飛びかう。

企業存続の瀬戸際に

ペッパーフードサービスは、当初5月15日に予定していた2020年12月期の第1四半期(2020年1〜3月期)の決算発表を延期したまま、いまだに決算発表の予定日すら示していない。先行き不透明感が漂う中、企業存続の瀬戸際を迎えているといっても過言ではないだろう。

ほかの外食大手では、エー・ピーカンパニーも低迷している。居酒屋チェーンの「塚田農場」を中心に3月末時点で国内183店舗を展開する同社は、コロナ前からの不振もたたり、2020年3月期の売上高は230億円(前期比6.1%減)、営業利益4500万円(前期2.9億円の赤字)と低水準だった。

3月末時点の現預金は18億円と月商に満たず、自己資本比率も同14.5%にとどまっている。ほぼ全店を休業した4月2日から2カ月を経て、6月1日から営業を再開したが、回復には時間がかかると見られる。

比較的に安定経営を保っていた大手チェーンですら、先行きが怪しくなってきた外食業界。もともと企業の規模がそれほど大きくなく、効率性の低さを指摘する向きもあった業界だけに、この先は倒産が増えるだけでなく、これから企業の統廃合が加速するかもしれない。