『丸亀製麺』には、通称「天かす天丼」と呼ばれる裏メニューがあります。どんなものかというと、「天丼用ごはん」(140円)だけを購入し、無料の「天かす」と「青ネギ」をのせ、これまた無料の「天丼用タレ」をかけて食べる、というものです。以前、挑戦してみた結論から言うと、なかなか美味しかった反面、かなりセコい行動のため、実際にオーダーするとなると、恥ずかしかったのを思い出します。

 そこで今回は逆に、丸亀で超リッチな体験をしてみようと決意しました。『丸亀製麺』の天ぷら全種類を、「かけうどん」にのせて食べると、果たしてどんな味わいを楽しめるのか? 同時に、人はそんなことをすると、どんな気持ちになるのか? という人体実験です。

魅力的な天ぷらの数々

 思い出してみてください。『丸亀製麺』でうどんを注文後に待ち受ける、揚げたての魅惑的な天ぷらたちのことを。あれもこれも食べてみたい。しかし種類豊富すぎて迷う人も多いんじゃないでしょうか? 筆者もその一人です。

「大海老天」は290円。牛丼が食べられそうな価格。高いです。と言って一番安い「ゴボウ天」(70円)だけでは納得いかない。せめて見た目が華やかな野菜のかけ揚げ(140円)にしようかと思いつつも、「おつゆの中でバラバラになったら天かすと一緒だしな」などと貧乏くさいことを考えて思いとどまることしばしば。

 結局、後ろに並ぶほかのお客さんの圧に負け、たいていおなじみの1個か2個を選ぶことになります。ちなみに筆者の場合、見た目と値段のバランスに鑑み、ロングな「チクワ天」(120円)と足が多い「げそ天」(130円)に落ち着くのがパターンです。

 しかし、美味しいとはいえ、毎度毎度「チクワとゲソ」という、どこか所帯じみた選択をする自分には、実は忸怩(じくじ)たる思いを抱いていたのもまた事実。1度くらいは、ドーンとリッチに、天ぷらを全部のせるゴージャス体験をしようじゃないか! と思ったわけです。

天ぷら全種類を盛り付け!

いつも盛況の丸亀製麺の店内
いつも盛況の丸亀製麺の店内

 そんなわけで、休日のお昼、東京・JR中野駅そばの『丸亀製麺 中野セントラルパーク店』にやってきました。家族連れが多く、ワイワイガヤガヤ楽しげな長蛇の列。そんな中、筆者は孤独にレーンに並び、「かけうどん」を注文します。でも不思議と寂しさはありません。なぜなら、今から天ぷらを全種類、バーンとお皿に盛るからです…!

 天ぷらのゾーンにさしかかります。トレーに天ぷら皿を2枚のせて準備万端。脇目もふらず、片っ端からから天ぷらトングでつまみ、お皿に移動させます。この時、後方の家族連れのお父さん、お母さん、子供たちの熱い視線を感じます。「すごい!」「なんと太っ腹な!」「どんだけ食うんだ?」「何でもいいから早くしろ」などなど、様々な気持ちのこもった眼差しです。

 天ぷらは、高い順から、大海老天290円、アスパラ天170円、カシワ天150円、野菜かき揚げ天140円、ほっけ天130円、イカ天130円、チクワ120円レンコン天110円、サツマイモ天110円、ゴボウ天70円の計10種類。計1420円。

そこにあった天ぷら全種類(計9種類)を根こそぎトレーにのせた状態。右はかけうどん(大)(410円)で、合計1830円。
そこにあった天ぷら全種類(計10種類)を根こそぎトレーにのせた状態。右はかけうどん(大)(410円)で、合計1830円。

 天ぷらゾーンを通過してお会計。トレーを差し出すと、明らかに係の方が狼狽。「ええと…」と、天ぷらの確認作業に手間取っています。衣が重なり合っているので、何の天ぷらがどれほどあるのか即断できない模様。

 そこで、これ幸いとばかりに「端から端まで、全部です」と伝えてみました。気分はさながら、セレブがハイブランドの店で「かかっている服を端から端まで全部ちょうだい」と言うイメージですが、ここはハイブランドのショップではなく丸亀製麺なので、ただのとんでもない食いしん坊という印象を残して立ち去ることになります。

 というわけで、山盛りの天ぷらとかけうどんをのせた重たいトレーを抱えて、店の一番見晴らしの良いテラス席へ移動しました。

これだけ天ぷらがあると、壮観です
これだけ天ぷらがあると、壮観です

 ここからが本番です。「超豪華! 天ぷら全盛りかけうどん」を完成させるには、この大量の天ぷらをきれいに盛り付けなくてはいけません。ケチくさい「天かす天丼」を作成したときのような後ろめたさは微塵もなく、今回は堂々と、しかも前衛芸術家のような気分で盛り付けていきます。

扱いに困るかき揚げ天(右)。手前はレンコン天
扱いに困るかき揚げ天(右)。手前はレンコン

 しかし、意外にこれが難しい。特に扱いに困るのが巨大なかき揚げ天。これを最初にのせると、丼を埋め尽くしてうどんが見えなくなります。そう、ここが丸亀製麺である以上、主役はあくまでうどん。食べる時にうどんにアクセスできねば意味がありません。

 そこでかき揚げは最後に回し、硬くて丸いレンコン天とサツマイモ天を、丼の両端に立てかけ、そこを足場に、中細タイプの天ぷら(大海老天、いか天、チクワ天、カシワ天)をひっかけ、最後に細身タイプの天ぷらアスパラ天、ゴボウ天、ほっけ天)を重ねていくことに。丼の中央はうどんが見えるように開けておきます。

うどんが見えるように配置
うどんが見えるように配置

 この積み上げ作業の間に、小さな子どもがやってきて、「何してんの?」と聞かれたり、また別の子どもが、友達に追われてテーブルの下に隠れたりするなどの予期せぬトラブルも発生。「おいおい、揺らすなよ」と思いつつも、子どもに興味を持たれて、ちょっと嬉しくもあります。そして最後にかき揚げをのせて、とうとう完成。いよいよ実食です。

「天ぷら全部盛りかけうどん」をいざ実食!

完成した「天ぷら全部盛りかけうどん」
完成した「天ぷら全部盛りかけうどん」

 まずは上方にあるアスパラ天、ゴボウ天、ほっけ天、海老天からいただきます。揚げたてなのでカリッ、サクッとしていて、初めて食べるほっけ天も滋味深い味わいで美味。大きなチクワ天やカシワ天を半分ほど食べたところで、ようやくうどんに到達しました。うどんをすすり続けている間に、野菜かき揚げがゆるゆるとつゆに溶けだします。これがまたなかなか美味しい。

俯瞰して見たところ
俯瞰して見たところ

 しかしある瞬間、急激に満腹感が襲ってきました。うどんが油と汁を吸って、どんどん増えていくのです。これはどうしたものか。呆然としていたところ、「遊んでないで食べなさい!」という、子どもを注意するよそのお母さんの声がどこからともなく聞こえてきました。

 そうです。食べ物で遊んではダメなのです。そこで、食べられそうにない天ぷらを皿に戻し、うどんだけは頑張って完食。お持ち帰り用の箱をもらってきて残った天ぷらは詰めて持ち帰ることにしました。

 というわけで、「天ぷら全部盛りかけうどん」は、1人でやらない方がいいことがよくわかりました。自分のキャパシティも考えず、見栄を張ったことを深く反省。身の丈に合わない行動は慎むべき、という、偉いお坊さんに説教でもされたような教訓を得た次第。

 でも、『丸亀製麺』の天ぷら全種を試すのは、数人でシェアするのであればかなり楽しいと思います。普段は絶対に手に取らない天ぷらが、食べてみると「こんなに美味しかったんだ」なんて発見もあります。ぜひ、家族や友人でチャレンジしてみてください。

(撮影・文◎Jeriko Tsucchina)

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