「港区港南アドレス」の4分の1の住人が暮らす大規模タワー
バブル崩壊や地価下落、大手企業による都心の福利厚生施設売却などを背景に、2000年前後に起きたのが「都心回帰」だ。都区部には比較的手が届きやすい価格のマンションが大量に供給され、低金利にも後押しされた多くの人が都心居住を選択した。
都心に回帰した多くの人たちが選んだのが、湾岸のタワーマンションだ。行政区では、江東区、中央区、港区、品川区などに集まっている。
今回紹介する港区のワールドシティタワーズもそのひとつなのだが、抜きん出ているのはそのスケール。いずれも地上42階建て、3棟のマンションに総計2000世帯以上、およそ5000人が暮らすというのだから、まさにひとつの街だ。
「このマンションが立つ港区港南は1~5丁目まであり、トータルの人口はおよそ2万人。そのうちの約4分の1をワールドシティタワーズの住人が占めている計算です。ちなみに最寄りの区立港南小学校は児童数およそ1300人のマンモス校ですが、そのうち約400人はワールドシティタワーズから通っているんです」と自治会防災部・中嶋さんは説明する。
筆者が取材に訪れたのは休日だったこともあったが、確かにラウンジや中庭などの共用部分の至る所に遊ぶ親子連れや子どもたちの姿があった。少子化などどこ吹く風という雰囲気だ。
バリエーション豊かな共用施設でひとつの街を形成する
その共用部分のバリエーション、充実度に驚かされた。例えば3棟のうちの1棟、アクアタワー1階にある天井高約9mの巨大吹抜け空間。ガラス越しにはワシントンヤシにボードウォーク、さらには住人用の桟橋(!)もある。桟橋からは私的にチャーターしたボートや、予約した東京ウォータータクシーなどに乗船してクルーズを楽しむことができる。
ほかにもジャグジー付き20mプールやゲストルーム、26・27階の2層吹抜けスカイラウンジ、ジム、コンシェルジュサービスなどなど…さらに、マンション敷地の入口付近には24時間営業のスーパーやカフェ、保育圏、クリニックなど、暮らしに欠かせない施設がそろっているのも素晴らしい。
飛行機、新幹線、リニアも…移動のしやすさが暮らしを豊かに
マンションのスペックもさることながら、ロケーションの良さにも多くの住人が満足している。
管理組合の平さんは「湾岸にはたくさんのタワーマンションがありますが、ここは周囲が開けていて、抜けが良い点が魅力なんです。東側と南側は京浜運河、北側は港区立の公園、西側は東京海洋大学のキャンパスに囲まれています。この先も環境はほぼ不変でしょうから、この眺めがずっと続くわけですよ」と満足そうに話してくれた。
目まぐるしく変貌し、高層化が進む都心において、住環境が変わらないことは大きな価値がある。
管理組合副理事長の松原さんが教えてくれたのは、特にビジネスパーソンにとっての立地の優位性。「羽田空港はここからだとあまり渋滞がなく、車でおよそ10分。モノレールも最寄りの天王洲アイルは数分の距離。さらに東海道新幹線が停まる品川駅は歩いても10数分です。ひんぱんに出張する人にはたまらなく便利ですよね」
ちなみに2027年に開通するリニア中央新幹線の始発駅も品川ですよね、と重ねて聞くと松原さんは「もちろん期待しています。その後には大阪へも延伸される計画なので、それに伴ってワールドシティタワーズの価値も上がるはずです」と自信をもって即答してくれた。
プールの水を飲み水に変える実証実験で約100名の住人が試飲
マンションの価値の向上という点では、管理組合と自治会がタッグを組み、先述した共用施設の新たな使い方に取り組んでいることも見逃せない。テーマは「防災」である。
「首都直下地震などの大規模災害が起きたとき、救急車の到着が極端に遅れる恐れもあります。そこで海上タクシーを運航している会社と協定を結び、マンション専用の桟橋からけが人を搬送できないか検討を進めてきました」(自治会防災部・中嶋さん)
2019年3月10日には実証実験を行ったそうだ。 「マンションから豊洲にある昭和大学江東豊洲病院までのけが人の搬送訓練を実施し、約20分で到着できること、担架は階段等の用途に合わせて軽量、握り手など、運びやすいものを備えるべき、などのデータを得ることができました」(中嶋さん)
さらに東京都が推奨する、避難所に行かず自宅に留まる「在宅避難」が続けられるような支援にも取り組む。使うのはプールだ。
「これも2019年3月に、浄化装置でプールの水を飲み水に変える実証実験を行いました。1日10時間で500ml×2400本製造可能。蓄電池とソーラーパネルがあるので停電時でも使用可能。1時間に約120リットルの水を浄化でき、お子さんも含めて約100名の住人に試飲していただきました。お腹をこわすなどの問題はもちろんありませんでしたよ」(中嶋さん)
内閣府によれば、首都直下地震が今後30年以内に発生する確率は70%だという。地震が起きるのは30年後かもしれないが、明日の可能性もある。ここで紹介した取り組みは桟橋やプールが設けられているからできた実証実験だが、少なくとも防災に向ける意識の高さは、マンションに暮らすすべての人にとって大いに参考になるだろう。
また、マンションの価値を保つための大きな資金源となる、駐車場の更新にも取り組んでいる。管理組合理事長の岡﨑さんは「機械式駐車場の一部のパレット(車が停車する板)を、最近の車の大型化に合わせてサイズを拡大します。数千万円かける見込みですが、ウエイティングリストから需要予測して数年で回収できる予測が立っています」と教えてくれた。
恵まれた共用施設(ハード)の恩恵に預かることができるのは、大規模マンションならではのメリット。でも、ハードの良さだけに満足せず、防災に利活用して将来への不安を小さくしたり、先行投資で安定した資金計画を立てるなど、ソフトへ向ける意識も豊かなマンション生活には欠かせない。今回の取材で、改めてそうしたことに気づかされた。