手を抜かないこと、高校野球で学んだ 田原総一朗さん

構成・安藤嘉浩 写真・越田省吾
【動画】田原総一朗さんが語る高校野球=越田省吾撮影
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未来へつなげ高校野球 私の提言

 ぼくはね、戦後の復活大会をよく覚えている。ラジオで聴いたんだ。あの玉音放送から1年後の1946年8月15日に開幕した第28回全国中等学校優勝野球大会甲子園球場でなく、西宮球場だった。浪商(大阪)が優勝し、エースは平古場(昭二)という名前だった。その名前を記憶している。プロ野球で審判もやった人だよね。

 やっと平和な時代が来たんだな。ラジオを聴きながら思った。大人も子どもも感じたんじゃないか。当時は小学6年生だった。

 もちろん、ぼくも野球をやった。小中学ではサード。だけど、高校ではレギュラーになれなかった。自分の能力を痛感させられたね。足が遅い。肩が弱い。勉強ならどんな科目でも、ちゃんとやれば点数がとれる。だけど、野球は思うようにならない。

 野球をやってよかったと思うのは、人間には怠けたいという気持ちがある。授業は先生の話を聞いていなくても、その場はやり過ごせる。野球の練習はそうはいかない。打って走って投げる。手を抜けない。一生懸命にやらなきゃいけない。これは野球で覚えた。

 高校野球は教育の一環。プロ野球に比べたら技術は未熟だが、一生懸命にやっている。もちろん、学生だから授業もある。授業の邪魔になるような練習はしない。高校野球というのは人間を育てる、鍛える。全身全霊をこめて頑張れるか。ここが高校野球の基本だと思っている。

 全国から素質のある選手を集めて野球に力を入れている高校もあるようだが、こればっかりは学校の方針だから否定はできない。母校の彦根東(滋賀)は進学校だが、今夏の甲子園大会に出場し、なんと1勝をあげた。歴史的な快挙だよ。色んな学校があっていい。

 日本の教育は、正解のある問題の解き方ばかり教える。生徒は想像力をかき立てられない。色んな意見、答えが出ないから、ディスカッションができない。そこに限界がある。

 野球に正解はない。スポーツの素晴らしさはそこにある。最近はサッカーが人気で、野球が負けているようだ。それがいけないとは言わないが、野球関係者は危機感を持って頑張って欲しい。なぜ若者がサッカーにいってしまうのか。しっかり考えてもらいたい。

 ずっと続いていって欲しいんだ。なんと言っても、高校野球は平和の象徴なんだから。甲子園大会が続く限り、日本は平和だ。(構成・安藤嘉浩、写真・越田省吾)

     ◇

 たはら・そういちろう 1934年、滋賀県出身。彦根東高―早大を卒業し、東京12チャンネル(現テレビ東京)などを経てフリージャーナリストに。司会を務める「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系列)は放送30年を迎えた。多数の著書には野村克也・元楽天監督と共著の「再生力」(イースト・プレス)も。

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