史上初、六角形の塩が誕生(ロシア研究)

六角形の塩が誕生 /iStock
 塩が六角形になると何の利点があるのだろう?食べ物の味が劇的にうまくなるとか、天ぷらに塩がデフォになるとか、そういう食塩的なことではないらしい。

 だが、産業技術分野には大きな躍進をもたらす可能性があるという。
レーダーや電気自動車などさまざまなものに応用できるのだそうだ。

 それが今回、ロシアの研究所で、史上初めて作り出された六角形構造を持つ塩化ナトリウム(NaCl)、つまりは塩なのだ。
【塩の2Dマテリアル】

 せっかくの六角形は肉眼では見ることができず、あくまでナノスケールで実現されたことだ。
 
 世の中3Dだの4Dだの次元が多くなるほど注目されがちだが、「2Dマテリアル」という新素材もまた注目されている。

 2Dというのは、原子数個程度のごく薄い材料を組み合わせて作られることに因んだ名称で、代表的なものとして炭素原子1個分の厚さしかない「グラフェン」がある。

 そして今回の六角形の塩、すなわち「六方晶NaCl」はその2Dマテリアルの最新版だ。


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image by:(Skolkovo Institute of Science and Technology
【2Dマテリアルのシミュレーション結果を再現】

 ロシア、スコルコボ科学技術研究所(Skolkovo Institute of Science and Technology)の研究チームによれば、当初はあくまでコンピューター上で2次元構造をシミュレーションするだけの研究であったそうだ。

 しかし基質がNaClフィルムと強く作用すると、フィルム構造に大きな変化が生じるという仮説に基づき研究を進めると、ダイヤモンド基質の上でNaClフィルムが六角形構造になるという興味深い結果が得られた。

 そこでそれを証明するべく、実際に作ってみようということになったのだそうだ。

【厚さ6ナノメートルしかない六角形の塩の極薄フィルム】

 一連の高圧実験で作られた六方晶NaClは、厚さわずか6ナノメートルという極薄フィルムだ。もちろん肉眼では分からず、X線回析や電子回析で測定しなければならない。

 それ以上厚くしようとすると、元の立方体に戻ってしまうという。


 そのような極薄フィルムだから、六角形の塩があなたの手料理の味に革新をもたらすようなことはないだろう。

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Pixabay
【電子機器への応用に期待】

一番応用の可能性が高いのは、電気自動車や通信デバイスなど、さまざまな電子機器に使われている「電界効果トランジスタ」であるとのこと。

 現時点で電界効果トランジスタには六角形構造の窒化ホウ酸(六方晶窒化ホウ酸)が利用されているが、それを六方晶NaClに変えれば、トランジスタの安定性が改善されると期待できるそうだ。

 なお、今回の研究は六方晶NaClを使った電界効果トランジスタの開発につながるだけでなく、いずれはさまざまな化合物で珍しい構造を作り出す方法をも解明してくれるかもしれない。

 驚異的な特性を発揮するグラフェン以外にも、2Dマテリアルにはまだまだ新しい発見がありそうだ。

 この研究は『Journal of Physical Chemistry Letters』(4月24日付)に掲載された。

Exotic Two-Dimensional Structure: The First Case of Hexagonal NaCl | The Journal of Physical Chemistry Letters
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.0c00874

References:For The First Time Ever, Scientists Have Created Hexagonal Salt/ written by konohazuku / edited by parumo
追記:(2020/06/05)本文を一部訂正して再送します。

記事全文はこちら:史上初、六角形の塩が誕生(ロシア研究) http://karapaia.com/archives/52291429.html