【竹内美樹の口福のおすそわけ 281】天まぶし! 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 「天まぶし」。どこかで聞いたことがあるような…。そう、名古屋名物「ひつまぶし」だ。刻んだ鰻(うなぎ)の蒲焼を、お櫃(ひつ)に入れたご飯に載せて提供し、それをお茶碗に取り分けて食す。ご存じの通り、1膳目はそのまま鰻めしで、2膳目は葱(ねぎ)やワサビ、海苔(のり)など薬味と共に、3膳目は緑茶や出汁(だし)をかけてお茶漬けにして食べる。一つの料理で3度おいしい、食いしん坊にはもってこいの楽しみ方である。

 これを応用したのが天まぶしだ。確かに「天茶」なるものが存在するのだから、最後の締めに天ぷらをお茶漬にするのはアリだろう。それを提供しているのが、株式会社ワンダーテーブルが営む「天吉屋(てんきちや)」。

 「天ぷらを召し上がった皆さまに、吉が訪れますように…」と名付けられた同店、看板メニューはこの天まぶしと「天吉丼」だ。4本の海老(えび)を2本ずつ並べて揚げた「いかだ揚げ」がウリで、天まぶしにも天吉丼にも入っている。

 天まぶしの食べ方は、まず天ぷら定食から始まる。天つゆに大根おろしや生姜(しょうがを入れて、天ぷらをストレートに食すのだ。お次は天丼。ご飯に天ぷらを載せ、卓上に備えてある丼タレをかけていただく。そして締めの天茶。スタッフにお願いすると、熱々の鰹(かつお)出汁が登場、ワサビと刻み海苔を入れれば、極上の天茶が出来上がる。「一度に三つの食べ方で楽しめる、業界初の天吉屋オリジナルメニュー」とうたっているだけあって、なかなかである。

 モチロン、天ぷらが少なければ最後まで持たない。先述の海老4本分のいかだ揚げ、真ダラと大葉の包み揚げ、イカと玉ねぎのかき揚げ、キス、インゲン、茄子(なす)、海苔という豪華ラインアップ。お櫃で運ばれるご飯も、お代わり自由だ。

 我田引水だが、同社代表取締役社長の秋元巳智雄氏には、飲食店サービス出身の成功者を描いた拙著「サービスパーソン」にご登場いただいている。埼玉県草加市で、15代続く地主で農業を営む家に生まれた同氏は、「食材の味に敏感になれたのは、両親のおかげ」と語る。彼が成功した理由はそれだけではない。卓越したプロデュース力と、先見の明があったのだ。

 2020年には、国内外で10カ国、150店舗以上を目指すという同社。自社ブランド「モーモーパラダイス」や「鍋ぞう」などの他、「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」や「ユニオンスクエア」など海外から誘致したブランドも多数。それだけではない。日本で誕生させたブランドを海外展開する、いわゆるアウトバウンドにも注力しているのだ。

 この天吉屋も例外ではなく、国内では新宿に1軒あるのみだが、海外では既に7店舗を構えている。天まぶしも思い付かなかったが、アウトバウンドもしかり、サスガである。

 サクッとした天ぷら、甘めのタレの天丼、熱々鰹出汁の天茶、いずれも甲乙つけがたい美味。海外でなんちゃって和食が問題になっている今、きちんとした口福を世界に広めてもらいたいと願う筆者である。

※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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