【竹内美樹の口福のおすそわけ 294】奇跡の十割蕎麦 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 東京銀座に店を構える「流石」は、生粉(きこ)打ち、つまり十割蕎麦(そば)の店。「本日の蕎麦」が壁に貼られ、その日は北海道産新蕎麦。蕎麦好きの筆者、期待が高まる。

 コースの始めは、白黒二色の自家製生湯葉。黒は黒大豆の豆乳を使っているそうだ。続く3点盛りも全て自家製で、蕎麦味噌(みそ)、わさび漬け、わさび海苔(のり)。香ばしくいった蕎麦の実がサクっとクリスピーで、コレをなめナメお酒をのめば、いくらでもイケそう。

 お蕎麦屋さんには、おいしい酒のツマミがある。同店の藤田千秋社長によれば、蕎麦屋は日本の居酒屋文化の始まりだという。

 「ぬき」という言葉がある。「天ぬき」というと、天ぷら蕎麦から天ぷらを抜いたものと思われがちだが、「天ぷら蕎麦の蕎麦抜き」を意味する江戸っ子言葉である。のんでいるうちに蕎麦がのびちゃうから、ツマミは天ぷらだけ食し、締めに蕎麦を食べるのだ。

 それゆえ蕎麦屋のツマミは、種モノと呼ばれる蕎麦の具が中心。江戸時代からある「しっぽく蕎麦」の具は、江戸後期の書物『守貞謾稿(もりさだまんこう)』によれば、玉子焼き、かまぼこ、シイタケ、クワイなど。それで蕎麦屋のツマミの代表選手は、玉子焼きや板ワサなのだ。

 話を戻そう。続いて登場したのは温かい花巻蕎麦。冷やす技術がなかった頃は、かけ蕎麦が基本。そこに江戸名物浅草海苔を載せたのが花巻蕎麦だ。このおだしとシャンパンが、とても合うのだと藤田さん。蕎麦とシャンパンは、同店が始めたマリアージュだ。

 お次はだし巻玉子。同店では呑兵衛の店主らしく、砂糖を一切使わないという。蕎麦つゆで味を付ける店が多いが、ここではだし巻玉子専用の特製ダシを作るそうだ。後味スッキリ、ますますお酒が進んじゃう。

 そして蕎麦がき。ご承知の通り、蕎麦切り技術が確立する前のスタイルだ。蕎麦のつるんとした喉越しが好きな筆者、今まであまり食指が動かなかったが、コレは別物。空気を含みふわふわで、聞けば300回以上かき混ぜているそう。究極の蕎麦がきと言えよう。さらに、ニシンやカモなどの煮物盛り合わせ、同店看板料理の一つ、生桜エビのかき揚げと続き、締めのお蕎麦に。

 店の名物「ひやかけそば」は、冷たいつゆをかけた蕎麦。お薬味は、大根おろしに裏ごしした梅をあえた「梅おろし」のみという潔さ。上品な味のだしは、最後の一滴まで飲み干せる。何よりも、グルテンを含まない蕎麦粉十割で、これほど細い蕎麦を打てるとは。コシもあって超美味!

 フリーのライターをされていたという藤田さん。約30年前に某店の十割蕎麦に感動するも、店を閉めると聞き、「コレが食べられなくなるなんて!」と弟子入りしたのが始まりだそう。おかげで今われわれもこの奇跡の十割蕎麦がいただけるのだ。かつてミシュランの星を獲得したのもうなずける。何よりも彼女の努力と、食と食文化への探求心には頭が下がる。また極細十割を食べたいし、もっとお話も伺いたい!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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