春、山菜の天ぷらがおいしい季節。でも揚げ物をしていて、天ぷら油に火がついてしまったら? インターネットでは「マヨネーズを容器ごと放り込む」「ぬれた布を鍋にかぶせる」といった消火法が散見されるが、神戸市消防局は専用の施設で実験を行い、いずれもやけどの危険が伴うことを確認した。不適切な対応は天井まで炎が燃え上がるなど火勢を強め、被害拡大につながることも実証。「必ず消火器の使用を」と呼び掛ける。
市消防局によると、昨年、住宅などの「こんろ」で発生した市内の火災44件のうち、4割の18件が「天ぷら油火災」だった。高温の油に霜が付いた冷凍食品を入れて炎上したり、揚げ焼き用の少量の油に短時間で引火したりする例が目立ったという。
実験は4月下旬、同市消防科学研究所(同市北区ひよどり北町3)の専用施設であった。ガスこんろでサラダ油を370度以上に熱し、鍋から炎が上がった状態で同局職員が4通りの初期消火を試み、安全性を比較した。
「湿らせた布で鍋を覆う」方法では、水にぬらして絞ったタオルを使用。やけどを防ぐことを前提に、手が火や油に触れないように投げ気味に鍋の上へかぶせたところ、鍋の口に隙間が残ってタオルが燃えた。「空気を遮断して燃焼を止める」などとホームページで紹介する自治体もあるが、同市消防局は「鍋の口を完全にふさぐのは難しい」と推奨していない。
「高温になった油の温度を下げる効果がある」などとインターネット上にある「マヨネーズの投入」も検証。炎が上がる鍋に容器ごと放り込んだ瞬間、油が飛び散り、こんろ周辺にも延焼した。容器が溶け、中身が出ると「火に油を注ぐ」状態にもなり、同局予防課の吉田大輝・消防司令補は「布で覆うのと同様、やけどや延焼のリスクがある」と強調した。
同市消防局は、最も安全な方法として消火器の使用を呼び掛ける。実験では2メートル程離れた場所から噴射し、油を浴びずに消し止めた。コンパクトな住宅用やスプレー式の消火器でも有効といい、「消火器の薬剤を使い切り、確実に消すよう心掛けてほしい」とする。
なお、炎に動揺し、水をかけると火勢は一気に拡大する。水をかける実験では、大量の水蒸気とともに高温の油が飛び散り、炎は高さ約3メートルの天井部分に達した。同市消防局は、炎が背丈を超えた段階で既に初期消火は困難としており、「迷わず避難する」ことも命を守る上で重要という。
火災のメカニズムや危険性を伝えるため、同局は天ぷら油火災のほか、ストーブやたばこなど原因別に約30種の火災実験動画を、同局のホームページで公開している。(井上太郎)
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