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知れば『グレムリン』愛がさらに増す!? 映画を成功に導いた6つの真実

グッチやシュプリームの最新コレクションにも登場した不思議クリーチャー「ギズモ」は、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮を務め、全世界で大ヒットを記録した『グレムリン』を象徴するキャラクターだ。1984年の公開から約40年近く経っても今作が未だ愛される理由と成功の秘密を、ビハインド・ザ・ストーリーとともに徹底検証!
グレムリン
Photo: Warner Bros. Pictures / Amblin Entertainment/Getty Images 

スティーブン・スピルバーグが下した英断

Photo: ©Warner Bros/Courtesy Everett Collection

 SF(ホラー⁉)コメディ『グレムリン』はスティーブン・スピルバーグが脚本を気に入って購入し、製作総指揮を務めた作品だ。あまりの愛らしさから思わずペットにしたくなるギズモだが、飼うには3つのルールが存在する。そのルールを破ってしまうと、とんでもないことに! 細胞分裂をして邪悪な“グレムリン”が大量繁殖し、クリスマスの街を襲う。脚本を手がけたのはクリス・コロンバス。今では『ホーム・アローン』(1990)や『ハリー・ポッター』シリーズの監督としてしられる彼だが、当時はまだ大学を卒業したばかりで『グレムリン』は彼にとって脚本家デビューをして2作目の作品だった。

24歳でスティーブン・スピルバーグに見いだされ、1980年代には、『グレムリン』のほかに『グーニーズ』(1985)や『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(1985)の脚本も執筆。ホリデームービーでは、『ホーム・アローン』(1990)や『クリスマス・クロニクル PART2』(2020)の監督もつとめている。Photo: Liz Hafalia/The San Francisco Chronicle via Getty Images

米ネットメディア「メンタルフロス」によると、そのクリス・コロンバスによるオリジナル脚本は完全にホラーよりのダークなもので、例えばグレムリンがビリーの飼い犬を食べてしまったり、母親の首を切って頭を階段から投げ落とすといった描写もあったそうだ。しかし、スピルバーグはジョー・ダンテ監督と話し合い、家族向きの映画に落とし込むために残酷なシーンを排除。また、もともとすべてのギズモがグレムリンに変身するはずだったストーリーを、最後の最後で「観客が感情移入できなくなるから」と、スピルバーグのひと声でオリジナルギズモはグレムリンに変身せず、人間の味方として存在することになったという。この突然のプロット変更にクリーチャーデザインチームは大慌てだったそうだが、スピルバーグのその英断こそが、間違いなく今も『グレムリン』が愛されている最たる理由の一つだろう。

グレムリンを生んだ「あの生命体」とは?

Photo: ©Warner Bros/Courtesy Everett Collection

ギズモを飼うためには3つのルールが存在する。

  1. 明るい光を当てないこと
  2. 水に濡らさないこと
  3. 真夜中すぎに食べ物を与えないこと

クリス・コロンバスが『グレムリン』の物語を思いついたのはニューヨーク大学を卒業してすぐのこと。ニューヨークのアパ―トでは年中ネズミが走り回っていたそうだ。物語誕生秘話についてコロンバは米「コライダー」にこう語っている。

「ホラー映画を観ていたら友人に、『そんなに怪物映画が好きなら、怪物が出てくる物語を書けばいいじゃないか』と言われたんだ。そのころ、家中走り回るネズミが夜寝ている間に僕の手の近くをウロウロする姿を想像して薄気味悪くなっていた。それで『グレムリン』を思いついたんだ」

Photo: ©Warner Bros/Courtesy Everett Collection

つまりネズミなくして『グレムリン』は存在しなかったというわけだ。ただし、3つのルールの3番目「真夜中すぎに食べ物を与えないこと」は、公開時からツッコまれっぱなし。何をもって真夜中とするのか国や時差よって変わるわけだが、そこはご愛敬ということで見逃してほしい。

幻となったティム・バートン監督案

『バットマン リターンズ』(1992)のセットで指示を出す若き日のティム・バートン監督。ティム・バートン版『グレムリン』も観てみたかったかも!?  Photo: ©Warner Bros. Pictures/Getty Images

本作の監督はジョー・ダンテだが、実はもともとスティーブン・スピルバーグはティム・バートンを監督の有力候補にあげていた。しかし、独自の世界観を反映しながらヒット作を生み出す重鎮として知られるティム・バートンには当時、才能では補いきれないあるものが不足していた。それは「経験値」。制作時ティム・バートンは長編映画を撮ったことがなかったのだ。米エンタメニュースサイト「スクリーン・ラント」によると、バートンの経験のなさを心配したスピルバーグは、結局『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983)でともに仕事をしたジョー・ダンテに監督をオファー。『グレムリン』が公開された翌年の1985年にバートンは『ピーウィーの大冒険』で監督デビューをして実力を見せつけたので、スピルバーグの懸念は杞憂に終わったことになるが、バートンが監督をしていたらオリジナル脚本にあったホラー要素をより濃く残していたなんてこともありそう。バートン版も観てみたいが、そうなるとやはりダンテ監督だったからこそ、幅広い層に本作の魅力を訴えることができたのかもしれない。

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グレムリンをCGなくして動かした技術

『グレムリン2 新・種・誕・生』(1990)のセットで。このシーンのギズモは人形(ぬいぐるみ)感が強め。Photo: Archive Photos/Getty Images

今のようにCGが発達していなかった1984年。メガホンを握ったジョー・ダンテ監督がアメリカ版Yahoo!に語ったところによると、ギズモをどのように撮影するのかで頭を悩ませたそうだ。「猿にグレムリンのスーツを着せるというアイデアがあり、赤毛猿にグレムリンの頭をつけてみた。しかし、猿は編集室中を走りまわり、そこら中に糞をしまくったので、これはダメだと悟ったんです」。結果的に人形を使うことになったが、これが電気で動く仕組みになっていた模様。主演のザック・ギャリガンは同年のテレビインタビューで、自身も床もふくめ、撮影現場はグレムリンを動かすワイヤーだらけだったと語っている。

本作でグレムリンをデザインしたクリーチャーデザイナー&特殊メイクアーティストのクリス・ウェイラスがアノマリー映画祭の取材で、「頭だけが電動で動く人形を3体作り、それをいくつものグレムリンの体に差し込んで撮影を行い、恐らく75~125体の人形を作った」と語っている。さらに動きの激しい人形には68もの配線を使って動かしていたとも。また、グレンムリンが電子レンジ内で爆発をしたり、とろけたりするシーンでは風船が大活躍をしたそうだ。人知と手作業がグレムリンに命を与えていたのだ(同時に奪ってもいるが)。

ヒロインにまつわるキャスティング秘話

ザック・キャリガン(右)とフィービー・ケイツ。Photo: Warner Bros. Pictures/Amblin E/Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images

本作でお金には苦労しているが、家族仲が良く純粋な心を持つ主人公のビリーを演じているのがザック・キャリガン。撮影時は19歳で、本作がスクリーンデビューとなったほぼ新人同然の存在だった。一方彼が思いを寄せるケイトを演じたフィービー・ケイツは、1982年に出演した『初体験・リッジモンドハイ』でトップレスになったことで社会的センセーションを巻き起こしたため、家族向け映画にはふさわしくないと言われていた。米「クリップティック」の取材でザックは「3回目のオーディションでフィービーと行ったスクリーンテストの映像を観たスピルバーグが、僕たちの相性がすごく良いと気に入ってくれたんです」と当時を振り返っている。多くの俳優たちがビリー役のオーディションを受けていたそうだが、スピルバーグは無名の新人と反対意見の多かったフィービーを大抜擢。その賭けの結果は、映画を観れば一目瞭然だろう。

『グレムリン』の起源を描くアニメが2023年に配信予定!

Photo: Warner Bros. Pictures / Amblin Entertainment/Getty Images

ちなみに2023年にはモグワイ(グレムリン)の起源を描くアニメーション『Gremlins: Secrets of the Mogwai?』がHBOマックスにてストリーミング予定。1920年代の上海を舞台に、10歳の少年サムがギズモと呼ばれるモグワイに出会うまでのストーリーとなっており、ザック・キャリガンもピート役で声の出演をするそうだ。また、2023年には1984年のオリジナル版の続編となる『Gremlin 3(原題)』公開の噂も。 クリス・コロンバスが担当するといわれているので、こちらも楽しみだ。

Text: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto