完了しました
和食需要取り込みへ
九州の食品メーカーや外食チェーン大手が、新型コロナウイルス禍で中断していた海外展開を再び活発化させている。経済活動が再開し、もともと人気があった和食への需要が回復しているためで、欧米や東南アジア市場を中心に販売拠点や店舗網の拡大を急いでいる。(橋本龍二)
「将来は自社工場」
「ぜひ我々のドレッシングを店舗に置いてほしい」――。ドレッシング製造のピエトロ(福岡市)は今年、全米にスーパーを展開する現地小売り大手に、商品を扱ってもらうための交渉を始めた。数回にわたって渡米した高橋泰行社長は「販路を拡大し、北米での事業を加速していきたい」と力を込める。
ピエトロは米国内で、主に西海岸の日系スーパーなどを通じ、日本とほぼ同じドレッシングを販売している。コロナ禍でもドレッシングの需要が落ちなかったことから、市場が大きい米東部を含め全米に販路を広げる好機と判断。昨年夏、同社として米東海岸で初の現地法人を東部フロリダ州に設立した。
現在は小売り大手への売り込みと並行し、米中部に生産工場がある企業とも交渉を重ねる。2025年までに米国での売り上げを現在の4倍の400万ドル(約5億円)に引き上げたい考えで、高橋社長は「将来的には自社工場も構えたい」と意欲を見せる。
「
同社は16年に米国でインターネット通販事業を始め、19~21年には香港と上海に進出。今後は米国での販路拡大を軸に、欧州や東南アジアでの展開もにらむ。
輸出4割増
食品メーカーが海外展開を再加速する背景には、日本製の食品に対する価値が改めて高まっていることがある。農林水産省によると、21年の加工食品の輸出額は4595億円で、コロナ前(19年)と比べ4割伸びた。22年も、前年を上回るペースが続いている。
食品メーカーと同様に海外出店を強化しているのが、外食チェーン大手だ。海外の日本食レストランは16万店近くまで増えており、経済回復が進むエリアでは外食需要の戻りも早いことから、落ち込んだ国内の収益をカバーする狙いもある。
ロイヤルホールディングス(HD)は8月、マレーシアに「天丼てんや」を出店すると発表した。てんやの海外店はこれで6か国・地域の計約30店となる。
特に今年4月以降は中国やフィリピンなどに相次いで新店を出しており、来年からは、資本・業務提携した大手商社の双日(東京)の協力を得てさらに規模を拡大する。「現地調達の食材を生かした新メニューもつくる」(ロイヤルHDの藤岡聡執行役員)という。
博多ラーメン店「一風堂」を運営する力の
海外店はアジアを中心に約140店となり、国内が20年3月末からの2年半で16店減った一方、海外は同期間に7店増えた。海外では席数が国内の2~3倍の100席超に上る店舗があるほか、ラーメン以外のメニューを充実させているのも特徴で、担当者は「ゆくゆくは全世界に店舗網を広げたい」と意気込む。
「地域化」戦略
ただ、足元では、ロシアのウクライナ侵略を背景とした原材料コストの上昇が各社を悩ませている。久原本家は国内生産した商品を輸出するため、原油高で輸送費が膨らむ。ピエトロも、広大な米国内での輸送コストが懸念材料となっている。外食チェーンは店舗運営費の上昇が課題で、海外事業を確実に収益につなげるための障壁は少なくない。
大和証券の五十嵐竣アナリストは「食は地域ごとに好みが分かれるため、成功確率を高めるにはローカライズ(地域化)が基本だ。食文化が近いアジア圏と、市場が大きい欧米ではそれぞれ異なる戦略が必要となる。現地で有力なパートナー企業を獲得できるかも重要だ」と指摘している。
国内では新業態で集客
国内の外食産業は、新型コロナウイルスの感染拡大による厳しさがなお続いている。日本フードサービス協会(東京)によると、今年10月時点のファストフードやファミリーレストラン、居酒屋などの外食店舗数は、コロナ前の2019年10月と比べ6.9%減だった。
各社はコロナ禍に対応した新業態に挑んでおり、「モスバーガー」を運営するモスフードサービス(東京)は11月、初となるチーズバーガーの専門店を東京都心部にオープンした。メニューを絞るとともにセルフレジも採用し、一等地でも収益が出るよう狭小で効率的な運営に努める。
ロイヤルホールディングスは持ち帰り需要の取り込みに向け、フライドチキンを主軸としたファストフード事業に進出。昨年5月以降、首都圏で計4店を構えている。