東京・関東圏を中心に勢力を拡大する「江戸切りそば ゆで太郎」。FC展開をけん引しているのが、ゆで太郎システム(東京・品川)だ。前回に引き続き、そのメニュー開発や全国展開の戦略、そして新業態について同社の池田智昭社長を小口氏が直撃。最後に新型コロナウイルスへの対策も追加取材した。

ゆで太郎システム池田智昭社長。1957年生まれ。「ほっかほっか亭」のFC経営、本部のスーパーバイザー、取締役を経て、2004年に信越食品が運営するそば店「ゆで太郎」をFC展開するゆで太郎システムを設立(写真/渡貫幹彦)
ゆで太郎システム池田智昭社長。1957年生まれ。「ほっかほっか亭」のFC経営、本部のスーパーバイザー、取締役を経て、2004年に信越食品が運営するそば店「ゆで太郎」をFC展開するゆで太郎システムを設立(写真/渡貫幹彦)
※本記事の取材は3月6日に行いました

小口: ゆで太郎では、メニューの開発と決定はどのように?

池田智昭さん(以下:池田): 商品部が上げてくるのを我々役員で試食して決めます。メニューと出店は最終的に私の判断。拒否権を発動して食べたくないものを売らないこともあります。たまに“好きじゃないけど、皆がいいと言うからやるか”ということもありますけど。いずれにせよ、発売して1週間もすれば結果が出ます。来店頻度が高いので、その結果は2週目からはもう動かない。

小口: 来店頻度が高いのでリピートが週内にあるということですね。ゆで太郎システムのお店と信越食品のお店とでメニューに違いは?

池田: 基幹メニューは合わせてありますが、全部一緒ではありません。全部が同じ必要はないと思っています。例えば信越食品の店にはたぬきそばやきつねそばもあるけど、うちにはない。揚げ玉は無料で置いてあるからご自分で勝手にどうぞと。ざるそばもない。瀬戸内播磨灘産のりをトッピングで用意しているので、それを買ってかけてもらえれば。

 2020年は新メニューの頻度を上げようと思っています。突如出して数がなくなり次第終わりというメニューもあります。それだと食材に限定ものが使えるんですよ。産地やメーカーと直接取引しているので、そうした食材が入ることがあるんです。

小口: メニュー開発のスピードが速いので、市場で安くなっている食材をピンポイントで仕入れて活用できる。

池田: 200店規模なのが、ちょうどいいんです。これが3000店だとこうはいかない。

小口: 現在300店舗を目指されていますが、そのぐらいがベストな規模?

池田: 増えたら増えたで何とでもなるでしょう。食材が全店に行きわたるほどなくても、期間や店舗限定のメニューにすれば問題ありませんし。それに、スケールメリットも大事です。そば粉は年間3000トンと、外食産業では一番使っています。こういう食材はたくさん作っていただくと単価が下げられるので、良いものを安く安定的に入れられる。そのほかにも本醸造のみりんを使うなど、食材の品質にはこだわっています。というのも、プロの料理人が作るわけではないので、食材には良いものを使わないとおいしくできないんです。原価もそれなりにかけています。

ゆで太郎のメニュー。ワンコインで食べられるセットメニューが人気(写真提供/ゆで太郎システム)
ゆで太郎のメニュー。ワンコインで食べられるセットメニューが人気(写真提供/ゆで太郎システム)

小口: そば粉の産地は?

池田: 半分は中国の内モンゴル産、もう半分はワシントン州やダコタ州を中心とした北米産です。19年は国産のそば粉が余って買ってくれと言うので、60トン仕入れて、東京の一部と北海道の全店に使っています。

小口: 国産そば粉の味はどうですか?

池田: 正直、思った以上に良いです。元に戻したときにどうなるか少し心配ですが。ただ、国産にしたから売り上げが伸びているかというとそこまでではない。

小口: 社長判断で導入してヒットしたメニューは?

池田: 今、メニューに残っているのは、ヒットしたものだけです。基本的にメニューは1つ増やしたら1つ減らしますから。一例を挙げるなら「薬味そば」。最初は「季節の薬味そば」だったんですが、ヒットしたので「季節の」を取ってレギュラーメニューにしました。

小口: 逆に、これは失敗したというメニューは?

池田: おにぎりなんか鉄板だと思ってたけど、全然ダメでした。「おにぎりが欲しい」という声が多かったので採用しましたが、よく考えたらあれは町のそば屋ではなく、立ち食いそばのメニューです。大きな丸天(さつま揚げ)、嬬恋のキャベツを使ったメンチなど、売れなかったものはいっぱいありますよ。

小口: 要望が多くても売れるとは限らない。

池田: もうね、お客さんは嘘ばっかり(笑)。カレーそばもそう。要望はいっぱい来るんですけど売れない。あと絶対売れると思って出すけど売れないのはとろろ系。今まで4回ほどチャレンジしたけどだめでした。観光地では鉄板だけど毎日食べるものじゃないのかもしれない。とはいえ、とろろはまた挑戦してみたくなりますね。

小口: ゆで太郎にはファンクラブがあるとか。

池田: 900人ほどの会員がいて、その人たちがいろんな意見や要望を挙げてくれます。要望を取り入れて、セットメニューのコロッケを大根おろしに、かき揚げをワカメに変えられるようにしました。誰がかき揚げをワカメに変えるんだと思ったけれど、やってみたら変える人が結構多い。朝は天ぷらじゃないほうがいいのかもしれません。

小口: 朝からおなかに重たいものは嫌だというそば好きは多そうですね。

池田: 言われてみればそうかなというのが、後から出てくるんです。この程度の変更はすぐにできます。この前は、店に酢を置き始めました。もやしのあんかけ麺に酢を入れるとスーラータンメン風になる。これもファンクラブの要望です。

ファンクラブの要望に素早く対応して酢を置くようにした(写真/渡貫幹彦)
ファンクラブの要望に素早く対応して酢を置くようにした(写真/渡貫幹彦)

ゆで太郎は西日本でも受けるか

小口: そばは西日本で売れない?

池田: 20年2月愛知に新店をオープンしましたが爆発的に売れています。ただ、これまで愛知にオープンした店ではカレーが売れなかった。なぜって聞いたら、パートさんは「カレーはココイチ(CoCo壱番屋)でしょう」と(笑)。うちのカレーは、あえてスパイシーにしない。昭和のお母さんのカレーをイメージしています。なぜなら、そのほうがそばに合うから。

小口: ココイチは愛知県が創業の地だからでしょうか。大阪は未開拓ですがどうでしょう?

池田: 個人的な感覚では大阪でも売れると思います。ただ重点的に出店するエリアは年によって決めていて、順番としては愛知の次は栃木です。

小口: 四国は?

池田: 松山(愛媛県)は、そば屋があるんで、うどん文化じゃないのかと思いました。讃岐(香川県)でやる気はしないけれど、それでもFCがやるって言えばやりますよ。

新業態「もつ次郎」は社長の趣味で出店?

小口: 新業態として「上州もつ次郎」を出されました。太郎の弟だから次郎?

池田: 最初は「もつ太郎」にしようとしたんだけど、女性社員から「いや、二郎でしょう」と言われて。でも「二」じゃラーメン二郎みたいになっちゃうから「次」に。そうすると、三郎は何ですかって言い出す人がいるんだけど、ないよと。(笑)

新業態「上州もつ次郎」。食券を購入してカウンターで受け取る、ゆで太郎と同じシステムでもつ料理を提供する(写真/小口覺)
新業態「上州もつ次郎」。食券を購入してカウンターで受け取る、ゆで太郎と同じシステムでもつ料理を提供する(写真/小口覺)

小口: 今さらですが、ゆで太郎のネーミングは? 前々から脱力系の名前だと思ってましたが。

池田: それが、創業者に聞いても実は分からないんです。この青い看板にした理由も分からない。青い看板なんて飲食店では普通使わないんですよ。創業者には「変えてもいいよ」と言われたけど、そうもいかないし。ゆで太郎の字は、1号店(湊店)の近くに住んでいた書道の先生に、さらっと書いてもらったらしいです。

小口: 書道の先生も、ここまで大きくなるとは予想していなかったでしょうね。話を戻しますと、なぜもつ料理の店を出そうと?

池田: これは私が食べたいから出したんです。もつ煮は北関東のソウルフードで、群馬には名店と呼ばれる店が何軒かあります。レシピを教えてくれないかと頼んでも絶対に教えてくれないので、自分でこつこつ食べながら開発していきました。

 1軒目(新田小金井店)と2軒目(東五反田店)は、店舗が狭いなどの理由で閉店するゆで太郎からの変更です。3軒目は、埼玉県の加須市上種足にオープンしました。ここはロードサイドで、ゆで太郎とイートインスペースを共用した造りにしました。もつうどんやもつ炒め定食、もつ屋の回鍋肉も新規メニューとして投入し、大いに期待しているところです。始めたばかりの試行錯誤ですが。まぁ、増えなかったらだめだったんだなと思ってください。(笑)

もつ次郎は定食メニューやアルコール類も充実している(写真/湯浅英夫)
もつ次郎は定食メニューやアルコール類も充実している(写真/湯浅英夫)
【意識低いポイント】「発売して1週間もすれば結果は出ます」「増えなかったらだめだったんだなと思ってください」
ゆで太郎のメニューは比較的オーソドックスなものが多いと思っていたが、数多くのトライアンドエラー、今風に言うならPDCAをすごい勢いで回したことで最適化されている。結果がすぐに出るからこそ、社長の言うとろろそばのような繰り返しの挑戦や新しい挑戦が何度もできるのだろう。

 取材から約1カ月後の4月3日に、新型コロナウイルスの対策について改めてメールで取材したところ、下記のような回答があったので最後に紹介します。

「日常食業態なので、居酒屋などとは違うが2月後半から影響が大きくなり、3月、4月と日を追って加速してきている。全従業員の雇用、待遇を確保することを第一としています。また加盟店のためにも、4月、5月と現金支給の支援策を講じました(2カ月支給総額1200万円の予定)。これは継続も検討しています。政府の施策を急いでもらいたいが、できることをやるのみです! 奇策はないので、現場である店舗のQSC(品質・サービス・清潔さ)の再確認および向上を図ります」

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