トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」は、「カイゼン」という言葉で世界中に知られている。その狙いは、工場で常態化していた「7つのムダ」をなくすことだった。『トヨタ物語』(新潮文庫)を出したノンフィクション作家の野地秩嘉さんが解説する――。

※本稿は、野地秩嘉『トヨタ物語』(新潮文庫)の一部を再編集したものです。

トヨタ自動車
写真=iStock.com/helen89
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機械工場→組み立て工場→塗装、プレス、鋳造…

トヨタ生産方式が導入された順序はまず機械工場であり、次が組み立て工場、それから塗装、プレス、鍛造(鋳造)といった順番だった。

機械工場はエンジン、ミッションなどを作り、組み付ける工場のこと。機械工場、組み立て工場にはベルトコンベアもしくは床面が動くスラットコンベアが入っている。一方、塗装はオーバーヘッドコンベアと台車、溶接は台車で、プレスから検査工程へはベルトコンベア。こうした工程では搬送のムダを解決することで生産性を上げることができる。

対して鍛造、鋳造といったところはできあがった部品をローラーの滑り台のようなシューターで流すだけだ。作業それ自体を見つめて動作のムダを発見しなくてはならない。

搬送装置があるかないか、もしくはどういった搬送装置を使っている工程なのかによってムダを発見するアプローチは違ってくる。

大野は自分が機械工場の担当だったこともあるけれど、まずはベルトコンベアが入っている機械工場の工程から導入を開始した。

次いで、組み立て工程だ。組み立て工程は単純作業の繰り返しだから、標準作業も設定しやすい。また素人がやっても次第に習熟する仕事で、システム化すれば誰もが同じ時間で作業ができるようになる。

一方、鍛造、鋳造の工程は職人仕事だ。仮に標準作業を設定して、作業にかかる秒数を決めたとしても、熟練者と新人ではできあがりがまったく違ってくる。板前が刺身を切る標準時間を決めても、誰もがおいしい刺身を調理できるとは限らないのと同じだ。

見られることを嫌がる日本人、気にしない米国人

ここから本題になるけれど、トヨタ生産方式を導入する際、現場が最も抵抗したのは標準作業の設定だった。組み立て工程では「監視されてるみたいで嫌だ」という反発を受け、鍛造、プレスの工程では「標準作業の設定に意味はない」と言われたのである。

標準作業を設定するには担当が作業者の後ろに立つ。そして、作業にかかわる動作をストップウォッチで計測し、記録する。現場の人間にとっては熟練、非熟練を問わず、それがいちばんやりにくかったという。

ただし「やりにくい」と答えたのは日本の工場で働いている人間だけだった。

ためしにケンタッキーの工場で数人に聞いてみたところ、「ストップウォッチの計測?  そんなことはノープロブレムだ」と全員が答えたのである。人に見られていたからといって作業が滞ることはないと言い切った。

「どうして、そんなことを聞くのか?」そう言ったチームメンバーもいた。